第6話 父との再会②

 再び付いてくるように言われ一緒に初めて乗るエレベーターに乗った。

 慣れた手つきで黒服はエレベーター扉横にあるパネルの下にカードキーを差し込み、パネルに24という数字が映し出されるのを確認しエレベーターの扉上にある階数を示しているであろうメータを眺めながらエレベーターが到着するのを待った。エレベーターの扉が開いてからは左にまっすぐ進みテーブルセットが用意されている場所で黒服は足を止めた。

 いつの間に用意し配置したのであろう兄の私物がこの部屋のあちこちに配置されていた。

 驚く私を椅子に座らせると最後に一言『こちらから外出は出来ませんのでご了承ください。』と言い残し黒服はその場をさった。


 時間は何時間もたっていたが全てがあっという間のことで自分の中でも何が何だかまだよくわからない。

 分かっていることはここはあの高級ホテルセントラルリゾートタワーで私は今自分がTVでしか見たことが無い場所にいるのだということと、あとは何故か配置された兄の私物がここにあるのだということだけ。


 エレベーターが再び動き黒服がいなくなったことを確認すると、とりあえずTV前に設置されたソファーに移動し腰を下した。

 そして目の前にある120インチはゆうにあるだろうTVをつけた。TVに映し出される光景にはいつも通り常に感染者の名前がテロップに流れる。

 おそらくこうして国の人間に保護されたということはテロップに兄の名前もあるだろうと思い名前を探したが兄の名前はなくニュースの最後に必ず表示される五十音で一覧に表示された特集にも名前はなかった。

 兄がリストにあがったからこその、兄の代わりだと思っていたが違ったのだろうか。

 こんな高級リゾートに案内されるといいニュースに名前が乗らないことといい何かがおかしい。


 通常ウィルスの症状は重く、あまりに辛いため感染を理由に性格が変わってしまうという話もよく聞く話だ。

 だから私の兄も例外ではなく性格が変わってしまったのだろうと思っていたが、昨晩は数年ぶりに会話をしてそして笑顔まで見せてくれた。

 瞳だけは今までと同じブラッディアイだったが昨晩だけは昔の・・・瞳が黒かった時期の兄と同じ性格だった気がする。


 そして昨晩今までの話をしてくれたがおそらく今まで兄を語るには一晩ではあまりに短い時間だっただろう。きっと多くは語れていないはずだ。

 先程の何故ニュースに乗ってこないのか?そして何故こうして医療施設ではなく高級ホテルにいるのか?という問いもきっとそこにあるはずに違いない。だがその問いを聞きたくても兄と連絡すらとれない今教えてくれる相手は誰もいない。

 私は他の感染者とは異なる好待遇に不安ばかりが募った。


 不安を抱えながら黒服に言われた通り外出することなく一週間が過ぎた。

 兄が変わってしまってからは家政婦も兄のサポートをするようになり、家事を行ってくれる家政婦はほとんど家にいることが無くなった。それはあまりに突然で、それまで家事というものとは無縁の生活をしてきた私は右も左も分からずその日その日を耐えしのぐ生活をしきた。そのせいだろう同じ歳の同姓と比較すると女性らしい体というものとは無縁になっていた。


 それがこの1週間日々TVを見て食事を取り眠るという行動を繰り返していたおかげで骨ばっていた自分の体は本来あるであろう肉を取り戻しつつあった。

 肉をとりもどしつつあるということは自然と女性の特徴も取り戻すということで、兄との違いが気付かれてしまう不安があった。しかし、その不安は今のところは問題ないだろう。不思議なことに兄の私物として運ばれてきた物はパーカーが多かったのだ。


 何故不思議かというと記憶にある兄の姿にパーカー姿は一つもなく、いつもの兄の姿といえばワイシャツかVネックのシャツばかり好んで着ていたのに…一体誰のだろとさえ思った。

 そんなわけで体系の隠れるパーカーはかなり帳保した。

 こんなことまで考えていたのだろうかとも思ったが、まさかありえないと頭を振る。


 当初は兄もそのまま医療施設に行き検査をしてそのまま別の居住区にいくだろうと思っていただろうから。

 最初は明日にはもう出ていかなければならないだろうと気をはって外の気配に気を配っていたものだが、一週間たっても一月たっても変わることが無かったためすっかりここは居心地のいい場所に変わっていった。


 そんな居心地のいい場所での日々が半年ほど続きようやくここに連れてきた黒服が姿を表した。

 すっかり兄とくらしていた幼少期の健康状態に戻った姿を見て黒服は少し驚いていたが何も言うことなく半年間お世話になったこの部屋から私を連れ出し再び私を車に乗せた。


 今回乗る車は以前の黒塗りの窓とは違い外が見える構造になっていた。二度目にしてようやく初めての車窓からみえる街並みは以前とは違い煌びやかで堪能していたらあっという間に目的地に到着した。


 そこは国の中枢地区に聳え立つツインタワーだった。

 ツインタワーの前で私たちは車を降りるとツインタワー右側の建物に入りエスカレーターで2階に進むと長い通路にたどり着いた。

 その長い通路にはいくつも窓がついており通路の窓からは町を見渡すには低い位置だったが今まで車で見てきた景色を少し上から見ることができた。

 長い通路も行き止まりとなり、黒服は目の前の壁の一部に手をかざし生体認証用パッドを表示させた。黒服の手の後だと思われる跡が下から認証出来た部分が赤い手形で表示され、目の前の行き止まりだった壁が開かれエレベーター内のような狭い空間が現れた。


 その空間に入ると空間内の壁に黒服が手をかざしホログラムを表示させた。そうして表示されたホログラムのLボタンを押し二度目の生体認証を行った。

 L?Rでなく?でも屋上かな?屋上に連れて行ってなにをさせる気だろう?

 そう不安に思ったが、到着するとLというのはどうやら間違いでも一般的にいう屋上でもなくラウンジを示しているらしいことが分かった。エレベーターを降りるとそこには壁一面が大きな窓に囲まれた広々とした空間で、テーブルがいくつも並ぶ場所だった。まるで空の中にある空間のように大きな窓からは先程みた窓からの光景とは異なり見渡す限りの空が広がっていた。開店前なのだろうラウンジだというのにその空間の席はほとんど人がいなかった。


 そのまま店内を黒服に連れられ進むと窓際にあった一番端の席に誰かが座っておりその席に案内された。


 そこには一人の男性が座っていた。

 歳は40位だろうか?離れた場所でも黒服の緊張からもその人が権力者だということがはかり知れる。

 私も黒服と同じように一歩また一歩と緊張しながら近づき、ようやくその人物の顔を見ることが出来たがその顔をみた瞬間ニーナは息をのんだ。


 久しぶりに見る父の姿だったのだ。

 最後に見たのはいつだっただろうか、もう記憶すらもあやふやなくらい前だった気がする。

 まだ母さんも生きていて4人で生活していたころじゃないだろうか?その当時のことを思い出し少し胸があつくなった。

 久しぶりに見る父の姿はだいぶ老けた。兄と同じ黒髪だった父の髪はもう殆ど白髪となり顔にはいくつも皺が深くほられている。いま父はいくつだっただろうか?


「…まさかお前がなるとは…」

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