第2話 序章②
【エリア9都市地区】
かつて歴史に名高い雷門が存在した日本生粋の江戸っ子たちがいた浅草
現在は代表的な提灯も畳まれ浅草寺は沈黙に包まれていた
数十年前のことだ
ここ浅草の町は数十年前に大流行したウィルスの流行後、経済に必要不可欠だと思われていた観光業はもはや困難とされた日本のなかでも平穏な日々を送っていた数少ない都市だった。
それは、当時浅草寺の僧侶であった者が独自の防衛線を張り見事に町民を守ったことが理由であった。この僧侶は偉大な者として長年評価され続け浅草は周辺の町々からの憧れの地であった。
だがそんな名高い僧侶が急死してしまうのを皮切りに浅草にもとうとうウィルスの魔の手が差し掛かったのだ。僧侶が亡くなり最初に2年は町民も僧侶の言葉を宝とし僧侶の方針通りに浅草を守ることができたが、時がたつというものは残酷で経過するにつれ僧侶の言葉は単なる心得となってしまい人々の心にあった疑念の種が次々と芽吹きだしてしまった。
そして僧侶が亡くなり早3年・・・
3年の月日がたったある日、町民は心では思っていても決して口にすることはなかったその疑念を口にするものが現れた。
『こんなに厳格なルールに従わなくてもいいのでわないか?』
『最小限のルールにして観光を重視するべきではないだろうか?』
観光として栄えた時代を知らない子供らとは違い、大人たちにとって観光として浅草が流行っていた華やかな時代を経験していたからこそ昔の光景は懐かしく、失ってしまったからこそよりいっそう美しい。
次第にそういう声が大きくなり一人そして一人と僧侶の教えを自己解釈していった。
人の欲とは加減がないもので自己解釈はとうとう僧侶の教えに背くものとなっていき、守っている町民すら己だけが守らずともという風潮になっていった。
そんな町民からの言葉に胸を痛めた次代僧侶が浅草寺を閉門し、観光としての役割はなくなったが町民の心を照らし続けた目玉の提灯を畳んでしまった。
閉門したことや提灯を畳んでしまったことなどに対する町民の怒りは予想以上に大きく僧侶たちは買い出し以外はほぼ立てこもり状態となってしまった。
半年後、その出来事を話題にする人間も減ってきた頃 長年大人数の感染報告がなかった浅草をウィルスが襲った。
次々と感染報告が上がる中で不安を感じた浅草町民が助けたのは昔この地を感染から救ってくれた浅草寺だった。しかしいかに感染拡大の報告を受けようと町民が泣き叫ぼうと心を閉ざした次代僧侶が浅草寺の門を開けることはなかった。
閉門より浅草寺に対し憤りを感じていた自警団はクラスターが発生したのにもかかわらずなんの手助けもしない浅草寺の僧侶を悪として行動を起こす決意をした。
浅草寺を放火するという恐ろしい行動を決断したのだ。
浅草という場所はかつて家々が密集しており自警団が放った炎は浅草寺だけではなくあっという間に浅草全体を燃やし尽くした。そして消火が難航し2日にわたる火災は浅草寺だけでなく周辺の家は見る影もなく焼け落とした。
浅草寺の閉門を決意した僧侶が最後に残した半分焼けた手紙にはこう記されていた。
『・・・ここは地上の地獄だろうか
辺り一面火の海で建物は瓦礫と化した。
人々は泣き叫び罵り怒り悲痛の声が木霊する。
一面に広がる匂いは人が焼ける匂いだろうか…
誰もが己可愛さに身を守り互いを助けず火さえも消す余裕がない。
何故私の愛した浅草がこんな風になってしまったのだろうか。
もし・・・』
手紙の前後は焼け落ちてしまっていたのだという
よほど無念だったのだろう。
僧侶は手紙を固く固く握りしめそのまま焼かれて亡くなっていたという。
この一文は僧侶の手により燃え残った部分だ。
この大火災による被害は3000人を越えるがその大半は浅草寺の僧侶だったそうだ。たった5年の間に見る影もなくなってしまったこの地は瓦礫と灰に埋もれてしまった。
大火災後国家の支援により浅草で発生したクラスターは解消し、感染者は全て医師の元に運ばれた。
この火災後多くの町民が引っ越した中 五年後の今現在ここに住んでいるのはかつての事件を目のあたりにし、後悔している町民がほとんどであり各々がひっそりと生活している。
そして再び浅草は沈黙を続け現在は大きなクラスター発生の噂も聞かなくなった。
それなのに…。
「いつきてもここは…」
浅草寺手前の表参道に烏面をつけた7人が黒服立つ。
浅草寺まで続くこの道のりは過去露店で賑わいを見せていたが、5年前の火災の教訓で周辺には家や露店は並ばず一面が砂利となっている。もし再び火災が発生したときの逃げ道になるようにと地元住民の強い意向で家がその後建てられることはなく砂利道となったそうだ。
砂利道で整えられた道のりを7人は歩きながら5年後であっても未だ残る浅草の被害跡を目のあたりにした。
この先の浅草寺には町民を守った伝説の僧侶が祀られるご本尊もあるのだが、この7人の目的は町内にあった。
「町民の中に感染者がいるらしい。クラスターが発生する前に早急に対処するぞ」
「二度とこの町が手遅れで自警団が暴れることなんてあってはいけない」
彼らの後方からはあとをついていくように複数のドローンが飛んでいたが町の中心に到着した時ドローンは一斉に広がり町内の探索に向かった。
「神楽がハイホーで探している間に我々は町内に分散して待機する」
彼らの名前は闇烏
通称カラス隊と言われる感染専門の防衛機関である
だがカラス隊の存在を人々が知ることはない。
彼らの存在を証明するものはすべて抹消され
彼らは人目につく行動は避け
印象付けるいかなる記憶をも他人に残してはいけない厳格なルールがある
彼らはデジャヴのように忘れ去られる存在
仕事を終えたらすぐにその場から消える
闇烏はこの世には存在しないのだ
彼らは国の防衛期間だがこの社会には帰属しない
全人類の黒子それが彼らなのだ
そして、これは人知れず戦い人々を救う彼らと私の物語だ
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