第9.5話 休日2『輝夜編』

 気持ちの良い朝陽が手にした本を照らす。この部屋に女性らしさはあまりなく、書斎に近い。要所要所に可愛らしいデザインの物が飾ってあるが主張が激しいわけではないので、良いバランスで部屋のコーディネートがなされている。

 この部屋の主、輝夜かぐやは白色のハーマンミラー製の椅子に腰掛け先に手に取った本を開き、栞を机に置く。読んでいる本は小難しい物でもなく、電撃文庫から出版されている恋愛小説。主人公と二重人格の少女達との三角関係を描いた物だ。ヒロイン達の苦悩や葛藤、二重人格であるが故の主人公との向き合い方など様々な描写が鮮明にえがかれている人気作品。


 十三ページ程読み進めた所で机に置いておいたスマホから通知音が鳴る。どうやら氷継ひつぎかららしい。

 栞を挟んで本を閉じ、スマホを手に取りLinkリンクを起動する。彼から送られてきたのは飼育することになった領界種の名前のことだった。まだあちらは決まっていない様で、中々決めあぐねているらしい。輝夜かぐやはもう既に決めていて、自身の名前から連想していき『ルナ』にすると決めていた。

 氷継ひつぎへ決めたら教えてね、と送り読書を再開する。二章を読み終えた辺りで部屋のドアがノックされ声をかけられた。


「はい、どうぞ」


「お嬢様、朝食の用意が出来ました」


「わかったわ、今行く。ありがと、久我くがさん」


 黒のロングテールコート着こなす白髪頭の老人、久我くが涼真りょうま。この家に代々使用人として仕えており、彼で優に100代は越えているだろう。そもそも六代貴族の歴史イコール天皇の歴史な為、神武天皇まで遡れば当然と言える数字だ。

 彼の退出後、スマホを手に後を追うように食堂へ向かう。食堂には複数名の使用人が席一つ一つの後ろに付き、その席には彼女の家族が既に着席していた。この家自体、瓦などを用いた伝統的な日本家屋なこともあり、席と言っても高さのある椅子ではなく座布団に背もたれがついているタイプで、旅館などでよく見かけるような物となっている。

 この家の当主、洸乃こうのは和服に身を包んで一番奥の席に正座していて、輝夜かぐやの定位置はその真正面、氷継ひつぎなら絶対に座りたくないであろう位置。

 静かに正座をし、正面の父へ顔を向ける。


「おはよう、お父さん」


「おはよう、輝夜。学校はどうだ」


「問題ないわ、順調よ。それより、例の件はどうなってるの?」


 頂きます、と呟き食事に着く。朝食は日本食で


「未だ調査中だ。わかったことも特には───」


「あるんでしょう?」


「......地下施設【禁忌資料保管所】にあったはずの一冊が盗まれたそうだ」


 娘にはどうにも嘘がつけないらしい。


「ッ?!」


 輝夜かぐやが食事の手を止め父親の顔を驚愕の表情で見つめる。

 【禁忌資料保管所】とは防衛大臣の管轄にある一般人には極秘であり非公開とされている、歴史、魔法、大犯罪等が資料として収められている場所のこと。

 六代貴族は公安ではないものの、身分で言えば天皇家の次とされいてる為、その当主の地位にいない者でも存在を知ることも入ることも可能ではある。

 事の重大さが理解できる彼女だからこそのリアクション。しかしもっと重要なのは


「盗まれたのは、歴史資料第六章【月闢式】だ」


「......」


 ただただ彼女は、俯いたまま無表情だった。

 事の重大さを噛み締めているのか、はたまた何も考えられていないのかはわからないが、じっと話の続きを待つ。


「現在調査中だが、例の奴らと無関係とは思えない」


「ええ...また何かわかったら教えて」


「ああ」


 の家庭ては違う、重たい空気が流れる朝食となった。

 

 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る