第12話 初めての学食

 午前の授業が終了し、各自昼食の時間になった。氷継ひつぎはなんだかんだこれが高校生生活初めての昼食。弁当は持ってきておらず、今から近くのコンビニへ行くか、学食で食べるかの二択だった。


 ───コンビニはいつでも食えるしなぁ...ここは学食か


 一瞬の思考の末、学食を選択し食堂へ向かうために席を立つ。


氷継ひつぎ君、学食に行くの?」


「ん?ああ、気になってたからな。そういや場所がわからねぇ...」


「だと思ったわ。私も学食に行くから一緒に行きましょう?」


 微笑を浮かべ氷継ひつぎを見やる。


「助かるよ、そうと決まればさっさそく向かおう。腹が減った」


「ふふ、そうね。私もお腹がすいたわ」


 そう呟き、二人は教室を後にした。

 廊下は昼食をどこで食べようかと話ながら歩く生徒達でごった返しており、エレベーターは長蛇の列ができてしまっている。二人は見合って静かに頷き、階段へと向かう。案の定階段は空いており、数名使っている程度だった。選択肢にはエスカレーターもあったが、どうせそちらも混んでいると見越しての階段だ。とはいえ食堂は一階にあるので、むしろ何故わざわざエレベーターを使うのかという疑問すら浮かぶ。


「天宮は食堂使ったことあるのか?」


 隣を歩く彼女に問う。


「もちろん。ここの学校は給食じゃないからね。でも高等部に上がってからは初めてよ」


「へぇ、給食じゃないんだな。まあでも給食とそんな変わらないか」


 どうやらこの学校は給食ではなく、初等部と中等部は学食か弁当のみで高等部から外食も許可される様で、大体高等部に上がってからは飽きて外食をする人も多いのだとか。近場にはコンビニも飲食店も多いのでそこら辺には困らない。

 食堂も廊下にはみ出るほどに長蛇の列が出来ており、食券の位置も見えない程だった。そもそも何があるかすらわからない氷継ひつぎは並んでいてもその間何にしようか考えることすらできない。


「っあ、そうだわ。Linkに食券の写真送っておいたからそれ見て決めておいた方がいいわよ?」


 ───気が利きすぎるぞ天宮


 氷継ひつぎは感謝を述べてLinkを開く。

 輝夜かぐやから送られた写真には何があるのかしっかりわかる程度の引きのアングルで撮られた食券機があり、種類は麺類、ご飯物、パン系、サイドメニューやドリンクがあるようだ。


「うーんどれも旨そうだな......ざる蕎麦にしようかな、好きだし蕎麦。あとはコーラだな」


「蕎麦好きなのね。私はざるうどんにしようかしら」


「っお、いいねぇうどん」


 他愛もない会話をしながら待つこと十分。ようやく食券機の場所まで進み【シード】を起動して学生証を翳すことで食券機が起動し、食券を発行できるようになった。学生は学生証を使うことで無償で学食を食べることができ、味も非常に良く人気もかなりある。

 食券機の隣に置いてあるトレイと箸を手に取り、受け取り口まで待つ───まあ、まだまだ先ではあるが。


「学食ってこんな混むもんなのか?」


「うーん...この学校がすごいだけだと思うわよ?」


「まあそれもそうか...」


 ようやく品を受け取り、空いていた席に腰を下ろした二人。一息をついて氷継ひつぎは辺りを見回すがまだ列があるようで、午後に授業がある時はどうしているのか気になってしまう。


「そんじゃま、食べますか!」


「そうね」


 二人は手を合わせ、合掌する。


「「いただきます」」


 感謝の言葉を述べて、各々食にありつく。ズズズズズッと音を立て麺を啜り、胃に運ぶ。少量の山葵とめんつゆ、ネギときざみ海苔、やはり蕎麦はこの組み合わせが良い様で、彼も満足そうに頬張っている。


「やあ、二人共」


「ん?おお、優奈ゆうだいじゃねぇか」


 トレイにカレーライスを乗せた優奈ゆうだいが人懐っこい笑みを浮かべて近づいてきた。


「私も居ますよ」

 

 ひょいっと優奈ゆうだいの後ろから顔を出すアルベント。どうやらこの二人も学食で昼食を取るらしい。


「隣いいかい?」


「ああ」


「ええ、もちろん」


 承諾を得た二人、優奈ゆうだい氷継ひつぎの隣にアルベントが輝夜かぐやの隣へと腰掛けた。列もかなり減ってきているようで、券売機の所に人は居らず品の受け取り待ちのみとなってる。

 優奈ゆうだいが一口カレーライスを食べたところで話を持ち出す。


「ところでこの後のことだけど、場所は札幌駅とその周辺の予定だよ」


「そういや任務間近だから午後は授業無しだったな」


 思い返すように氷継ひつぎが呟く。


「そうそう、本来は自主練のしろってことなんだけど、道具を買いに行ったりするのも十分任務に関係することだからね」


「俺はそういう店行くのなんて昔のことだから正直よくわからんぞ」


「大丈夫、僕の行きつけの店に行く予定だからきっと氷継ひつぎも気に入ると思うよ」


「っま、楽しみにしとくぜ」


 そう言って蕎麦を堪能する。女子組は男子組とは違って防具の話などしておらず、サブミッションであるただのショッピングの話に花を咲かせていた。まだ高校生の身ではあるが二人は貴族階級に属している、庶民よりは美的意識が高いのだろう。それに比べて優奈ゆうだいは衣類は無頓着でアルベントに選ばせることが多い。氷継ひつぎはある程度のお洒落には気を遣っているのでマシであろう。


「優ちゃん、服、買うからね?」


「ははは...お手柔らかに頼むよ、アル」


 アルベントの問い掛けに苦笑いを浮かべる優奈ゆうだい

 普段からこの様なやり取りをしているのか、ほんわかした雰囲気がこの場に漂う。氷継ひつぎが感じているこよ雰囲気、自身の両親から感じる物に似ている気がした。


 ───なんだこいつらイチャつきやがってはよ結婚しろや

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る