第9話 再会

 氷継ひつぎ輝夜かぐやはメッセージの指示にあった第二演習場へと足を運んだ。そこには既にチームを組み終えた人達がウォーミングアップを済ませ、連携を組んだり、互いのことを話し合ったりしている。

 彼らは見覚えのある青年がいる二階席へと移動した。二階にある客席にはちらほら話し合いをしているチームがあり、その中に二人しかいないチームがおりどうやらその二人らしい。

 入り口付近にいた氷継ひつぎ達に気が付くと、そこにいた二人組は席から立ち上がり、金髪の青年の隣を歩くように背丈の小さな女の子がこちらに向かってきた。


「やあ、直接会うのは久し振りだね。氷継ひつぎ


「ああ、お前も俺もテレビでも共演することはなかったしな」


「まあ僕らは出るジャンルも違うから仕方ないよ」


「俺はテレビなんざ出たかねぇけどな」


 口を尖らせ憎まれ口を叩く。


「相変わらずだね、ははっ」


 柔和な笑みを浮かべ気さくに話し掛けてきたのは、彼の旧友、優柰ゆうだい。日本人らしからぬ金色の髪ではあるが純粋な日本人で、特段ハーフというわけでもなんでもない。

 テレビ、と言うのは氷継ひつぎということで蓮の変わりにだったりでよくテレビに出させられていたことがあった。優柰ゆうだいも家柄の関係上出演することが多く、たまにモデルの仕事が入ることもあったようだ。


「まあ、改めてよろしく頼むぜ」


「こちらこそだよ、氷継ひつぎ


 二人は握手をし笑い合う、昔を懐かしむように。


「それにしても戻ってきてくれるとはね。てっきりあのまま会えなくなるのかとッウ...い、痛いな……アル。どうしたんだい?」


 隣にいた小柄な少女が優柰ゆうだいの右脇腹に軽めの左ストレートが入り、彼女に苦笑いを向けた。


「頬緩め過ぎ」


「し、仕方ないじゃないか、久々に会ったんだから...」


「これからの日本を担う人になるんだから、緩めるのは良くない」


 目を細めてジトッと咎める様に言う。


「お前のバディのがしっかりしてそうだな」


 小さく呟いた氷継ひつぎに向き直り、姿勢を正して自己紹介を始めた。


「お初にお目にかかります、天道氷継てんどうひつぎ様。私はアルベント・ノーヴルイル、ドイツ国内序列五位のレーヴェルトの娘です」


「まさかとは思っていたが、あのレーヴェルトの娘か」


 彼女、アルベント・ノーヴルイルはドイツ国内の序列五位で親日家でもある、レーヴェルト・ノーヴルイルの娘。

 背は低く、黒髪のウルフヘアーで左目が隠れている。


「僕らの場合バディっていうか、許嫁だけどね」


「そ、そうなの!?」


 氷継ひつぎの隣で驚嘆の声を上げる。


「あれ輝夜かぐや洸乃こうのさんから聞いてないのかい?僕らはそういう関係性だよ?」


「何も聞いてないわ...」


 さも当然かのように告げられたが、どうやら全く聞かされていなかったようだ。

 洸乃こうの、名字は天宮。彼は六代貴族の天宮家現当主で七殺の称号を所持している者。つまり輝夜かぐやの父親である。


「んじゃまあ、よろしく頼むぜお前ら」


「ああ!」


「よろしくお願いします」


「うん!」


 三者三様の返答を聞き、氷継ひつぎ達はさっそく今回の任務についての話を始めた。とはいえ、彼にはあまりその辺の知識はなく、いくら勉強を普通科でしていたとは言っても、やはり現地の声とは異なっている。


「それじゃあさっそく話し合いをしていこうか。まずはどのくらいの戦闘経験があるかどうか。僕とアルは中等部三年の頃から任務経験がある。基本的に侵食が激しい地域に出現した魔物や領界種の討伐だね。二人はどうだい?」


「私はバディがいなかったから数回、高等部の先輩方に混ざって討伐に当たったことがあるくらいね...氷継ひつぎ君は?」


「お前らも知っての通り普通科からの編入だからな、領界種との戦闘経験はは無い......まあつい先日の襲撃を除けば、だがな」


 想継エーテル術式全書なる物を持ってはいるが、結局のところこの業界ではまだまだ素人であることに変わりはない。


 ───結局親父と同じ道を歩くことになるのか...これも運命かもな


「了解だよ。そうだねぇ......簡単に模擬戦でもしてみようか。...お前が弱すぎると困るからねぇ」

 

 あからさまな挑発。勿論彼は本気で言っている訳ではない。だが優奈ゆうだいはそんな安い挑発に彼が乗っかって来るのをよく知っている。

 イラッ

 そんな擬音が聞こえてきそうなくらいに眉を潜めた氷継ひつぎ


「デカイ口叩けるようになったなあ優奈ゆうだい君??」


 不敵な笑みを浮かべながらジリジリと優奈ゆうだいに近寄っていく。握り拳を作りながら。あーっと思わず溢したアルベントは彼の隣から離れ輝夜かぐやの隣に移動した。


「やりたいって言ってたんだよね、模擬戦。主にそこ二人で」


「そんなに?あまり彼が好戦的なイメージは無いのだけれど」


「普段はない。でも氷継ひつぎ様のこととなると別みたい。毎回彼の話になる度に戦いたいって」


 呆れ混じり呟き肩を竦める。それだけの仲の良さを輝夜かぐやは羨ましくも思っている。自分はそれを忘れさせてしまったから。


「今の氷継ひつぎになら余裕で勝てると思うけどな?」


「ああいいぜ、やってやろうじゃねぇか」


 パキパキッと指の骨を鳴らしながら優奈ゆうだいと火花を散らす睨み合いになり、そのまま演習場一階へと移動していき、彼女らもそれに続いて仲裁に入れるように待機することとなった。

 時間にして三十分程、剣を交わらせたが意外にも氷継ひつぎが善戦したことで決着は着かなかった様だ。だが二人はまだ続けようとしていた為、女子二人が間に入って止めることとなる。そもそも模擬戦自体、学校側に申請しないと行ってはいけない物なのであまり事を大きくするとバレてしまい、最悪謹慎処分で任務に行けなくなってしまう恐れすらあるのだ。その理由として【精神置換想置】の使用権限が関係しているのだが、まあバレなければどうということはない。


 とはいえ、校内でも良い意味でも悪い意味でも目立つ二人がやり合うわけなので早々に止めざるを得なかった。


「なんで良い勝負してんだよ...」


 ふぅーッと息を吐き出しながら、肩に掛けた鞘に剣を納める。


「それは僕が聞きたいよ。強すぎだよ氷継ひつぎ......」


 遺伝なのかはたまた素でこれなのか、真相はわからないが恐怖すら感じてしまう程の学習能力があるのは間違いないだろう。


「剣道やってたお陰なのか、こないだのあれのせいなのか......。どっちにしろ任務には支障無さそうだろ?」


「うん、十分すぎるくらいにね」


 優奈ゆうだいの一言に彼女らも頷き返す。まあ輝夜かぐやは模擬戦もやっていたし、領界種との戦闘も間近で見ているので納得しないわけがないのたが。


「君の現時点での実力もわかったところで、さっそく初任務の内容を確認しようか」


 彼の言葉に一同頷き、スマホを取り出す。追加のメッセージの中に任務内容が書かれた書類がPDFで添付されており、それを開く。


『任務難易度:D 闘級【獣森級】D~C【ヴォルフ・サルトゥス】四体、C【ユイット・サルトゥス】一体の討伐。討伐後は速やかに帰還すること、討伐数の確認方法は【核】を必要数持ち帰ることとする』


 狼の姿をした領界種四体と蜘蛛が巨大化した領界種一体の討伐。どの学生も同じ任務内容で何チームかごとに日を分けて討伐任務が行われる。だが、氷継ひつぎ達の割り振られた任務は進級したての一年生にしては難易度は高めの様で、どうやら成績優秀者が多いチームには少しレベルの高い物が提示される様だ。


「そこそこの任務だね。とは言え、僕らに出来ない物でも無さそうだ」


「ほーんそうなのか。闘級はまだ全然把握しきれてねぇから、いまいちピンとこん」


「まあそこは追々覚えていけば大丈夫だよ、現段階ならアルファベット表記の危険度さえ分かってればね」


「ああそれなら大丈夫だ。普通科じゃあそれでしか習わないからな」


 普通科と探索科の違いを感じながら当日のフォーメーションについての話し合いが行われる。基本的に氷継ひつぎ優奈ゆうだいが前衛、後衛にはアルベントそしてそれの援護を輝夜かぐやが行うことになった。指揮は前衛二人が取り行い、スピード重視での戦い方をするようだ。

 その後数日、連携の確認や討伐対象の資料を頭に入れたりなどをして過ごして、四月二十八日遂に当日を迎えた。

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