第8話 異変
二○十九年四月八日、月曜日。土日は新術の開発に勤しんでいた為一切外に出ず、出ても近くの自販機へ行き赤いラベルの炭酸飲料を買うくらい。とはいえそう簡単にできる物でもないので、結局どんな形にしようかと悩んだだけで完成はしなかった。
「ふわぁぁぁ...」
大きな欠伸をしながら席に着く。
「おはよう、
「おはよう、
先に席にいた
先週とは違い、どうやら彼は時間ギリギリに登校してしまった様だ。
「お前ら~早く席につけ!チャイムは鳴り終わってるんだぞ!!」
───思ってるより置いていかれてるのか?俺は......
「今日から月一の任務に関連した授業をしていく。まだ早いと思うだろうが、一度も外界へ出たことがない生徒が大半、今からやっても遅いくらいだ」
彼が話を始めると途端にその場が静かになる。
「この任務は他クラスとチームを組んで行う。連携をしっかり取る為に、チーム編成後に各々で訓練を行ってもらう。チーム編成に関してはこちらから個人のレベルに見合った者のリストを元に、自分達で編成を行え。終わったチームから演習場での訓練だ、いいな!」
「「「はい!!」」」
───通知───
Link『夢乃:数学がわからない、助けて』
『輝夜:飼育する領界種のことだけど、もう名前は決めた?』
ファイル『伊澤犬寺:チーム編成候補一覧』
───◇◇◇───
三件の通知があり、
───なんか...くそ少なくね?もっといるよな、人って
とはいえ、誰も誘わないわけにもいかないので駄目元で隣に座る彼女に声をかける。
「なあ、天宮。特に相手が決まってなければ俺と組まないか?」
「!!ええ、是非。私も丁度どうしようか考えてたところだったの」
「んじゃ後はもう一組か......あいつに声かけてみるかな~」
「彼?」
「そ、あいつ」
「良いんじゃないかしら、昔馴染みだしね」
リストにある彼の名前をタップすることで、自動的に
───Link───
氷継『よお、久々だな。優奈』
優奈『っや、久々。待ってたよ、君からの連絡』
氷継『答えはYESってことでいいんだな?』
優奈『勿論。それと、僕のバディはアルベント・ノーヴルイルだよ』
氷継『ノーヴルイルか...聞き覚えのある名前だ。こっちは天宮輝夜だ』
優奈『へぇ、随分と凄い人をバディに選んでるんだね』
氷継『あ?何がだ』
優奈『もしかしてだけど、何も知らないでバディ組んでるのかい?』
氷継『まあそうなるのか?別に普通の生徒だろ』
優奈『君らしいと言えば君らしいけど......
良いかい氷継、彼女は六代貴族の人間だよ』
氷継『本当に言ってんのか?』
優奈『僕は間違わないでしょ
それじゃよろしく、氷継』
氷継『...おう』
───◇◇◇───
六代貴族。天皇陛下を表から守護する貴族達を指す。遥か昔からその六人が天皇を守護し続け、必然的に六人それぞれが貴族となったことで、六代貴族と総称されるようになった。そして
そっっと
URLを踏んだ先にはメンバーの記入ができるフォームになっているようで、四人分の名前を記入する項目が表示されたのでそこに四人の名前を入力し送信して完了。
送信後直ぐに追加でメッセージが届き、それを開く。メッセージには『送信完了を確認。フォーマンセルでの訓練を行ってください。場所は第二演習場です』とあった。
「......メッセージ見ましたか?」
「ええ、第二演習場ね。行きましょうか......って何その敬語」
「いや、うん。なんでもねぇ...」
軽く確認を済ませて互いに立ち上がる。
◇───◇
無音の地下通路を足音を響かせながら歩を進める。下水道とは違って綺麗に舗装されており、等間隔で設置された近代的な青白い光が周囲を照らす。ここは東京の都心から少し離れにある、国が管理───厳密には防衛大臣の管轄───している地下施設。そしてこの施設に入ることが許されているのは公安の一科以上の人間と総理大臣に防衛大臣、そして天皇の血を引く者、と限られている程に厳重な機密施設だ。もっと言えば、一科は全国で二十人、そしてその上は更に少なく十二人しかいないことを踏まえると、この場所がどれだけ特殊な場所か理解できるだろう。
「一体何が起きている」
「未だ調査中ですが、まだ何も。むしろ、被害が急増しています。しかも、全国で」
白のロングスカートに襟元にレースがついた薄紫のシャツを着た女性が前を歩くYシャツにショルダーホルスターを身に付けた男性───おそらく上司に当たるであろう男───に現状を伝える。
「天道家のご子息の一件以来他県でも事が起き始めた。だがその時とは違って被害にあった者は生死ではなく行方不明になる......」
溜め息混じりに呟き頭をかいた。
目線の先には扉があり、右側の壁にあるカードキーに自身の警察、公安配属時に配布される手帳にあるカードを翳す。ピピッと電子音の後に赤い光が青に変わり、扉が自動で開く。二人はそのまま奥へと進み中へと入った。
中央にコンソールがあり、その周りには黒いソファーが一つと高さ三メートル程の本棚が部屋を埋め尽くしている。本棚には無数の本やラベルが貼られたファイルがあり、そのどれもが一般的に禁書にされた物や非公開の犯罪、非公開の歴史的資料など、どれも民間には絶対に出ない物ばかりが集められている場所の様だ。
「今回俺達が探さなきゃいけないのは、奴らに関することだ」
「人体の完全再生、領界種の創造、そしてロストスペルと呼ばれる物、ですね」
「そう、どこで起きた事例にも確認されているのがその三つだ。直接見た者もいれば、
「では、私は禁書の方を」
「ああ、頼む」
男は中央のコンソールを起動し、禁術に関する項目を調べていく。この中には全世界共通で禁忌とされる魔法、魔術が唯一記録されていてそれにアクセスが許される人間も限られている。その為一科以上───零科の彼が起動させる必要があったというわけだ。
禁忌の魔法や魔術だけがあるわけではなく、一般的に普及されている魔法、魔術や一般的には公開されなかったが禁忌ではない
禁忌指定と表示された項目を選び、次々と表示されていく禁忌になった魔法、魔術達に目を通していく。
「これか......」
回復、治癒系の項目にある禁術【
「やはりないか......
「荒井さん!この本に領界種の創造に関する記述が!!」
「ッな、ほんとか!!」
「ここです!!」
荒井は指で示された文章に目を通す。
「......『白月の妖怪(現在の領界種)の創造には人間の血肉、膨大なエーテル元素、魔力を完全に除去することで成し得る。創り出されるそれを可能とするのは魔術ではなく月闢式。月闢式に関しては第六章に記載』か。概ね理解したが、まずこの月闢式がなんなのかだな」
「......それなんですが、この六章の一冊だけが無いんです」
「......なに?」
目線を向けた先の本棚には本来そこにあるはずの本が抜けていた。
これはかなりの異例である。そもそも一般の人間が入れる場所ではなく、ましてや入れる人間もごく僅か。警備もかなり厳重で容易に入れるようなものでもない。
荒井は入室時に至急される外部と通信が可能な通信機を起動した。
「こちら管制室。どうされましたか」
「こちら荒井、緊急事態だ。とある書物が一冊盗まれた可能性がある。監視カメラ、入室記録の確認と防衛大臣への連絡を急いでくれ」
「了解」
通信を終え顔をしかめる。
「とんでもねぇことが起きてそうだ」
「ですね、これからどうします?」
「俺達は指示があるまで一時ここに待機だな。後の事はその時に考えよう...」
「りょーかいです...」
二人はこれからのことを考え少し面倒くささを感じながらソファーに腰掛けた。
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