第7話 学内見学
「後は学内見学だな」
「そうね、と言っても在校生からしたらあまり目ぼしい物はないんだけれど」
「まあそうだよな」
教室に戻った二人は他のクラスメイト達が戻り、見学までの時間、雑談をして過ごしている。だが、中々クラスメイト達は戻ってこず不思議に思っていた。
「
そう言って颯爽と教室を後にしようとした
「ちょ、ちょっと待ってくれ
「校長と付けろ...全く。ああそうだ、お前だけだ。
「そうだったの!?」
「......言ってなかったかしら」
記憶を辿るように一瞬考えたが、やっぱり言っていないようで、気まずそうに目線を逸らした。
あとは任せたと
「あんまり普通の学校とある物は変わりないと思うけど、まずは一階から行きましょ」
「おー」
気の抜けた返事をして彼女の隣を歩く。学内見学をしているの本当に彼らだけの様で、他の生徒達は帰宅をするために正門から出て、市電を待ったり、徒歩で帰宅したり様々だった。それを横目に一階にある施設の説明がなされていく。
「基本的に一階にはほとんど何も無いわね。あるのはシャワールーム、大浴場、全学生共通の休憩所に保健室。あとは食堂くらいかしら」
「それの殆どが別館みたいになってるから、一階はほんとに通路くらいの役割ね」
そこへ繋がる通路に指を差しながら順々に進んでいく。この学院は一階から最上階である六階までエントランスが吹き抜けになっており、見た目もそうだがとても学校とは思えない作りだ。そして小中高が横一列に並び校内での行き来が可能で、付属領星院は校内での行き来はできないものの、地下空間である【
「っあ、あと図書館もあったわね。三階建ての」
「三階建ての......」
別館としてある図書館。多賀城図書館を彷彿とさせる佇まいで、内装には木を多く取り入れ、黒や灰色、白を使い落ち着いた仕様になっており、さらに一階にはカフェがあり、図書館は一般市民の使用も許可されていて、休日は大変混雑している。
───学校ってなんだったっけ
本来の誰もが知る学校という形を全く成していない物を目の当たりにし、言葉を失いつつある
「次は二階ね」
二人はエントランスに設置されたエスカレーターを使用して二階へと向かう。この学院での上下の移動方法は、エスカレーター、エレベーター、階段の三つ。どれを使うかで若干のヒエラルキーが見え隠れしてしまう──とはいえ、貴族しか使ってはいけない等の規則があるわけではないが、何処かしら染み付いた市民性の様な物だろう。
「二階からは基本的に教室がメインで置かれているわね。教室は二階分を使って一教室になってるいわ。教室全体が階段状になっている為ね」
「まさかあの形になってるとは思わなかったな。一般的な教室を想像してた」
彼が想像していたのは、机独立していて教室が平面的になっているごくごく一般的なタイプ。
「一応、全ての講義室がこの形ね。初等部と中等部、そして付属領星院もそうよ」
「後この階にあるのは科学室と技術室ね。その上の三階に音楽教室、美術教室。四階が教育相談室、進路資料・指導室。五階は二教室分で歴史資料室の構成になっているわ」
今度はエレベーターで最上階を目指しながら説明を受ける。
「んで、最上階は職員室か?」
「ええ、そうよ」
「はぁ~、デカすぎて訳わかんねぇわ...」
「まあ一ヶ月もすれば慣れるわ、きっとね」
「だと良いけど」
簡単にではあるが二人の学内見学は終わり、再び奴らが飼われる地下へ向かう。他の生徒は既に下校済みで、委員会担当教員の男性が一人で餌やりをしていた。
「っおお、来たね二人共。待ってたよ~」
黒縁の丸い眼鏡をかけた男性教員が餌やりを中断してこちらに手を振る。
「お待たせしました。あとは私達だけですか?」
「あァあ、そうだよ。でも安心して、まだまだ沢山この子達はいるからねぇ」
そう言われて見渡した無数の檻には担当の生徒の物と思われるネームプレートが付けられているのとないのが入り交じっていた。どうやらかなりの個体数を飼育しているらしい。
奴らが
「やっぱり苦手?」
「......ああ、まあな。ペットショップとかは特に駄目だ」
彼は別に動物が苦手なわけではない。理由があるわけではないが、ペットショップで必死にアピールをするために鳴いている動物を可愛いとは思えず、むしろ恐ろしいとまで感じてしまうそう。出られなければ死ぬとわかっているから鳴いてアピールをしている、と感じてしまう様だ。
───猫好きだけど、飼えることはなさそうだな
「ん?何かしら、これ」
彼女が足を止めて見つめる先には、檻と呼ぶには閉鎖的で独房に近く、完全に個室で外側からは全く中の様子が伺えない。そこからは巨大な咆哮が轟き、二人の恐怖心を煽る。
「流石にやべぇのもいるよな、そりゃあ......」
「っおお、その子達に目を付けるとはお目が高いねぇ。その子達は生後間もないのにエーテルの内包率が凄まじくてねぇ」
エーテルや魔力というのは成長していくにつれ増えていく。ある程度、最終的な保有量というのが産まれた段階で予測ができるのだが、どうやらこの独房にいる二匹は最終的な保有量を優に越した状態で産まれたとのこと。
「
───聞いたことはある、
「そう聞いているよ、
「親父が?」
「あァあ、そうさ。そうそう!その子達片方はもう担当が決まってるんだ。だから君達二人のどちらかになっちゃうねぇ」
「まだこいつにするなんて一言も......」
そもそも、どんな姿をしているのかすらもわかってないのにと、片方の担当者の名前に目をやった。名前は───
「
その名前に見覚えがあり、声を上げる。
「彼なのね。彼らしいと言えば彼らしいわ」
「あいつも生物飼
うわ~と声に出しそうな程に嫌そうな顔になった。
ニコニコして見守っていた男性教員はハッとした顔になり
「そうだったそうだった。彼から伝言を預かっていてね。『氷継が選ばない方を僕は選んだから』って」
「あいつ俺がこの学校来たの気付いてたのかよ!!」
「普通気付くと思うわよ?」
ただ、
「それじゃあ
「おーい勝手に話が進んでるんだけど」
「良いじゃない、特にいなかったんでしょ?他に」
「まあ、うん、そうだけども。はぁ......なんかあいつに乗せられてる気もするけど、いいや...」
溜め息をつきながら封印の力が込められた鎖で覆われている独房の扉に手を掛ける。
───鎖に使われているのはエーテルか、なら回路に侵入させれば解除はいけるか?
自身のエーテルを鎖に流し鎖にかけられた封印式に干渉を行う。この封印の術式は『
その術式を知っている者の内に
それを解除するには同じく
「......
「わりぃ、ちょっと黙っててくれ」
集中力を高め鎖一つ一つにかけられた封印を解除していく。最も、
「───終わったぞ」
封印式の消えた鎖が、ガランガランッと大きな金属音を立てながら床に力なく落ちていく。
意を決して扉を開ける。そこに風はないはずなのに髪を撫で制服を揺らす。それは体内漏れだしたエーテルが作り出す風圧による物だった。二人の視界に飛び込んで来たのは、大量の鎖に繋がれた、黒い狼の姿をした領界種の幼体と伝説の鳥、鳳凰を彷彿とさせる風貌の領界種の幼体が、鎖から逃れようと暴れまわっていた。
それを見た二人は思わず言葉を失った。幼体でありながら、その身体から発するエーテルはとてもその小さな身体に収まっているとは思えない物だった。
「......この量のエーテルに耐えれる鎖どうなってんだ」
「ええ、全くだわ。ちなみにだけど、この二匹の固有名はわかるかしら?」
「いや全くわからんな。一応休んでた期間中に領界種と魔物は全種頭に入れたけど見たことねぇな」
「待って全種?全種って言った?嘘でしょ領界種と魔物両方を?」
「ああそうだけど......何、なんか変か?」
「かなり凄いことよ、かなりね」
そう言いながら
「その子達は正体不明らしくてねぇ。
「なんつーもん拾ってきてんだ親父は......」
若干の呆れを込めて呟く。
───ふーむ、あいつの担当はどうせ鳥の方だろうな
心の中でぼやき、黒い狼を睨む。それに気付いた奴は
「俺は別にてめぇら全員が嫌いな訳じゃない。攻撃をしない奴らが居るのも知ってる。だから俺達が繋がる為の、お前がその第一歩だ」
黒い狼に右手を差し出す。奴は一瞬驚きを見せグルルと唸ったが、スクッと立ち上がり手を乗せた。途端、深紅の輝きを放ち微細な粒子と共に文字が浮かぶ。これは契約を結ぶ時に発生する現象【紅印主従契約】。両者が血を浮かんでいる文字のどこにでもいいので垂らすことで契約を成立させることができる。
「これで契約完了ね」
「よし、これからよろしく頼むぜ。名前は土日にでも考えとく」
ガウッと返事をして眠りにつく。だが体からは常にエーテルが流れ出ている様で、これが成体になった時更に凄まじい力を持つと考えると、少し恐ろしくも思う。
「おめでとう
そう言って式が書かれた数十枚のA4用紙を渡して、スタスタと学院へと戻って行ってしまった。
「嘘だろ......これ」
「が、頑張ってね、
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