第2話 演習場
全員の自己紹介が終わり、学生証と今日から一週間の流れの説明に入った。
「学生証は今配ったプリント記載されてるQRコードをスマホで読み取ったらアプリで出てくる。それじゃ、やってみてくれ」
担任の指示に従い、各々QRコードを読み取り始めた。
ホワァンッと起動音を鳴らして水色基調の近未来的デザインが画面を覆った。領域探査学院生専用アプリ【シード】。メールアドレスを入力することで個人認証が完了し、様々な情報が表示されていく。
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・魔力適正値:E-
・魔力保持量A+
・適正属性:氷属性・無属性
・エーテル適正値:A
・エーテル保持量:S
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・
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その他にも校内地図や一般公開されている魔法大全、技式大全など様々な情報が入っていた。【シード】は一般人も使う【カーディナル】や軍人達が使っている【オトリテ】の学院版。個人の証明は勿論、料金の支払いなども一括して操作を行うことができる、便利なアプリケーション。スマホを持っている人なら大体の人が使っている。
ひとしきり設定諸々を終えた所で、担任の
「すでに見つけた人もいると思うが、現時点で序列は全員記録無しとなっている。初めて序列がつけられるのは、今月の末にある任務を無事完了してからだ」
「......任務?」
怪訝そうな顔で呟く
「もしかして、任務のこと何も知らない?」
「ああ、知らないな。親父からも聞いてない」
「そっか。たぶんこれから説明されると思うけどわからなかったら私にでも聞いてね」
彼女は少し首を傾けて柔らかく微笑む。
「おお、わりぃな」
「月に一度の任務に関しては、日が近づいてから追って説明をするが、軽く話をしておく。その任務の内容はそれぞれバラバラで、達成することで報酬金が貰える。学生にとってはかなりの額だ、無駄遣いするなよ?」
一拍置いて話を続ける。
「最初の任務はそこまで難しい物じゃない。ちなみにだが、在学中に序列が四桁に入れればかなりの好成績だ...とまあ月一の任務に関してはこんなところか」
スワァンッという音と共に壁一面に大きく表示される。そこには今週の予定が記載されたページが映し出されていた。
「んーと、今日の予定があとは兵科訪問のみか」
「明日からは普通の授業で、金曜日に学内見学と委員会決めもあるみたいね」
各々予定を確認し終えた所で終業を告げるチャイムが鳴る。それを聞いた
各自、席を立って次の目的地である、それぞれの兵科専用の演習場へと向かい始めた。
「それじゃ、俺達も行くか」
「そうね」
ガタガタッとお互い椅子から立ち上がり、持ち物を手に教室を後にした。
◇──────────────────────────◇
「おいおい、まだ着かないのか」
「う~ん、後少しのはず...なんだけど」
演習場はそれぞれの兵科ごとに用意されており、どの校舎からも行けるようになっている。そこを繋ぐ通路は全て動く歩道なっているため、移動は快適。
「やっと見えたな......」
彼の目線の先にようやっとその全貌が現れる。
演習場への入り口は全て自動ドアに統一されており、エーテルによって完全な防音が施されている。地下一階、地上二階建ての計三階建て。
一階は全て練習場となっていて、床は魔石を加工した物になっているので早々壊れることはない。体を打ったりすると中々に痛い為注意は必要だが。
二階は応接室や更衣室にシャワー室、休憩室があり、地下には訓練用の武器や掃除用具といった物が保管されている。
二人は自動ドアを通り中に入ると、上級生達が既に訓練を開始していた。無論、本物を使って。基本的には訓練用に用意された普通の金属製の物を使用し訓練を行う。
───大丈夫ってわかってても怖いわね、あれは......
パンフレットやサイトの学内技術説明欄に記載されている、「肉体的ダメージの全てが精神的ダメージに変換される」という特殊なエーテルを使った装置、【精神置換想置】を搭載しているため外傷になることは滅多にない。
二人が入り口で立ち尽くしていると、それに気がついた一人の女子生徒が駆け寄ってくる。
少し茶色に近い髪を後ろで結んだポニーテール。青鈍色の瞳で、第一印象は活発な女性といったところだろうか。背丈も
「
───ツヴァイト...だから、えーっと......二年生か
「今日は三年生がいないので、変わりに私が一年生に兵科の説明をしています。それでは、こちらにどうぞ」
二人は頷き返して彼女の後ろに続く。右側にある階段を上がり、二階にある応接室に入る。応接室というだけあって室内はとても豪勢な作りになっていた。
床には大理石が使用され、黒光りするソファーに板硝子と世界三大銘木であるチークで作られた長机にワインセラー。
正直ここまで豪華な物を演習場の一角に必要があるのだろうかという疑問は出てきてしまう程の揃いようだ。
「凄く綺麗でしょ?私も初めてここに来た時はびっくりしたよ~」
「そうですね、正直少し緊張しちゃます」
お世辞混じりではあるがしっかりと返答をする
───中々いい内装だな、参考にしよう
「それじゃあ、二人共そこに座って。他の子達はもう訓練に入ってるからパパッと終らせちゃおう!」
「そうですね、俺も早く剣握りたいんで」
───今俺がどれだけの実力なのか知らないといけないからな
「物騒だよ、
「説明と言ってもそこまで難しい話じゃないから。これを見ながら説明していくね」
「まず最初に、この創領科は他の兵科に比べて特殊なの。他の兵科は近接武器を得意とする
「エーテルが創造と想像を司る物だから...ね」
資料を見つめながら小さく溢す
「なるほどな。良く言えば万能。悪く言えば半端者ってことですね?」
「そうね、他の科にも欠点があるように
「武器の種類を大きくしか分けてないんですね」
「ええ、そういうこと。それじゃあ部門の話はこれくらいにして、次は活動する曜日ね。この兵科は基本的に火曜、木曜、土曜の三日。それ以外の日は申請書を職員室に出してくれれば自由に使えるからじゃんじゃん使っちゃってね」
そう言って
「それじゃ説明も終わったし、さっそく二人にも訓練に加わってもらおっかな!」
その言葉に二人は顔を見合わせて小さく笑みを浮かべた。
訓練と言えど本格的な打ち合いも程々に、魔力を使って技式を発動させるなどは無しの組み手の様な物。
気合いの籠った声が響き渡る訓練場で、
次第に
これが自身の領域に入るということ。要はゾーンというやつだ。
───この感覚も久し振りだ......やっぱり本物は重いな
父親を嫌ってからは実剣なんて触れて来なかったし、触れることなんて今後来ないとも考えていた
ただひたすらに剣を振り、よぎる思考を消し去っていく。
どれくらい経っただろうか、
「ねぇ、
「いいけど......俺じゃあ相手が務まらねぇと思うぞ?」
「それは...やってみないとわからないでしょう?」
「まあ、それもそうか」
「うん、それじゃあ......」
そう言って
「□□□□□□ ■■【
周りに居る生徒達は空間魔法の一種なのかと思い、物珍しさもあってか盛り上りを見せた。
だがその場にいる
そんな術式は知らない───と
術式の名は聴こえなかった。まるでノイズにでも阻まれたかの様に。それでもはっきりと眼で視ることはできた。その術式に使われたのは魔力ではなくエーテルだったことが。
彼女の手に現れたのは一振の刀だった。だがそこに鞘は無く、月の様に真っ白な刀身が輝き美しく露になっている。
鍔は五芒星を形取り、白を基調とし金色のラインが入れられていた。柄巻も白色が使用されており、魅入ってしまうほどに美しい。
周りの生徒がそれに気を取られている中、
そんな自分達を押し退けて、好奇心に体が動かされていく。
「それがなんであれ、面白そうだ」
腰に下げた鞘から剣を抜き、脱力した状態で立って
少しの沈黙の後、両者が同時に地を蹴り距離を縮め、
「ッい────っぶねぇ!!」
ジーンとした痛みを堪える暇もなく、下段から一気に上に振り上げた刀の刃を、
───切り返し早ッ!!
埒が明かないとわかると、
腰を落として右手に握る刀を顔と同じ高さに持っていき、剣先近くの棟を左手の親指と人差し指の間に乗せる。
「軽くのつもりだったからこれで最後にしましょう」
「ああ、俺もそのつもりだ」
短く言葉を交わし、お互いがただその一撃に意識を集中させていく。
両者一斉に駆け出し距離を詰めていく。刀を前に突き出して猛スピードで彼へと迫る
二人は力み過ぎたようで、ほんのり刃へとエーテルが乗ってしまっていた。それのせいもあり加速した二つの剣閃は先程よりも早く動く。次第に
一瞬の強い光に目を閉じた生徒達が再び二人に目線を送った時には、両者共首元へ刃先が向けられギリギリの所で静止していた。どうやら勝敗はドローのようだ。
それに比べて
───おいおい、汗一つ掻いてねぇぞ。まあ概ね自分の力量は量れたかな
「ありがとう、
「いや、こちらこそ」
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