第8話

「おはよう」

目を覚ますと、クロネコがお腹の上に乗っていた。どうやら、いつの間にかベットに移動して寝てしまっていたようだ。近くにあるスマホを確認すると十時を過ぎていた。

心臓が跳ね上がり、飛び起きる。完全に遅刻だ。

お腹の上に乗っているクロネコを下ろして、急いでクローゼットがあるところまで走り、スーツに着替える。

何かお腹に入る簡単なものはないか探しに、キッチンに向かうが、そこまでの経路にあった机にぶつかってしまい、机の上にあったマグカップを床に落としてしまった。大きな音が静かな朝の家に響き渡る。マグカップにプリントされていた手書きの絵はバラバラになった。起きてからまだ3分も経っていないので頭が働かない。加えて遅刻が確定。頭の中は荒れに荒れていた。

「何をしている」

「なにって、あぁーもう。遅刻じゃないか!」

マグカップは仕事から帰ってきてから片付けよう。朝食はもういいや。机の端っこでなんとか耐えて落ちなかった腕時計を急いで腕にはめて、時間を再度確認した。10時17分。完全に遅刻だ。

「今日は日曜日だぞ。」

クロネコは言ったが、僕は無視した。そんなしょうもない冗談に付き合っていられるほどの余裕はない。

「おい聞け。日曜日だぞ、今日は。ほらスマホ見てみろ。」

クロネコが器用にスマホを背中に乗せて持ってきた。そのスマホを奪うように取り、確認する。スマホには 6月2日(日) と書かれていた。そんなはずはない。

「昨日は確かに木曜日だったぞ。どうなっている。」

「君、眠ったときのこと覚えている。」

「あぁ、お前が急に僕の胸に手を当ててきて。そしたら、身体が沈んでいくような感覚になって…気が付いたら。」

「俺がお前を連れてタイムリープした。」

「なんだと」

この言葉を聞き、すぐさまリビングにあるテレビを付けた。平日ならこの時間はニュース番組を放送しているはずだが、今テレビに流れているのは毎週日曜日にやっている旅番組だった。前に何度か見たことがある。

「勝手に……」

「ん、何ににやついているんだ」

下から目線に対してこんなに癪に障ることはない。

「どう。この力」

一旦深呼吸。心に隙間を作って自分に余裕を持たせた。

「本当にできるとはね。驚いたよ。まあ、こんなことされたら信じるなと言われる方が無理だな」

舐められてはいけない。さも、もうこの状況にはもう慣れましたよ、という雰囲気で答えた。

「そんじゃ。帰ろうか」

「え。早くない?」

「早いだと?今回はデモンストレーションだよ。過去に戻れるとう証明。できたでしょ」

「いや、あとちょっと。数十分だけ。ほら、せっかく戻ったわけだし。マグカップも片付けないと」

「もう無理だ。帰るぞ」

「だって。えぇ、まだ五分しか経っていないだろ」

人懐っこくない猫は好かれないぞ。

 クロネコは僕の方に近づいて、つい先ほどの時と同じように、手を胸に当てた。だんだんと目が閉じていく。そして、身体が沈んでいった。

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