第4話
時刻は5時半。雑務もあらかた片付いてきた。
―そろそろ帰るか。
職員室を出て、高校をあとにする。この教員といった仕事にはこれといった刺激がない。勝つか負けるかといったハラハラすることは体育祭と合唱コンクールくらいだ。ただ、これは生徒が頑張っているだけなので、僕が勝手にハラハラしているだけなんだけど。
駅から降りると、時刻は六時半になりそうだった。改札を出て。帰りは大通りから帰る。
大通りを抜けて、ちょっとした小道に入ったところで誰かに呼び止められた。
「こんにちは。水野さん」
パッと振り返るが誰もいない。空耳か。でも確かに声はした気がしていた。
次も一歩を進めようと右足を上げると、すごく重かった。視線を下に向けると、黒猫が右足の裾を引っ張っていた。
「お、やっと気づいたか」
声は聞こえる。周りをもう一度見渡すが人間の姿は見えない。
「え、今見たよね?気づいてるよね?夜だからってのでこんばんは、って言われないと返事しない人?違うよね」
僕は黒猫を持ち上げて、マイクロスピーカーか何かがついているか確認したが、見当たらなかった。どうやら声の主はこのクロネコらしい。
「黒猫が喋ってるのか…」
「そうだよ。全く鈍感だな。そこまでだったとは。理解が遅くてびっくりだよ」
頭がグルグルしてきた。これは夢か現(うつつ)か。持ち上げていたクロネコを刺激しないようにそっと置き、走った。
全身が熱くなったり、冷たくなったりしている。この体がおかしくなっているのは走りながら感覚的に分かった。とにかく頭の中は疑問符で埋め尽くされていた。
家に駆けこみ、ドアの鍵を閉めて、深く深呼吸する。何かの悪戯だ。きっとそうだ。間違いない。体が熱い。ちょっと頭を冷やそう。冷凍庫の中にアイスがあったはず。食べよう食べよう。
靴を脱ぎ、家の中に入っていくと、あのクロネコがリビングにポツンといた。
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