第3話
「んー。そういう相談なら友達とかにする方が解決しやすいと思うんだけど。なんだかんだみんな、親身になって聞いてくれると思うよ」
「多分、そうしてくれるとは思うんですけど。あんまり自分のこういうところ。なんて言えばいいんでしょう。とにかく、友達に相談はしにくいんですよね」
分かるな。
かれこれ、もう30分以上は話を聞いている。もう結論は出たも同然だった。相談内容は、中野が部活動で所属しているバスケットボール部のメンバーの一人と仲良くなれない。どうしたらいいのか、というものだった。天真爛漫で裏表がない、いい人、と周りから認知されている中野が仲良くなれないのは少し不思議だが、人間にもタイプ相性がある。その子にとっては、合わない、と判断されたのだろう。
みんなが人間関係で悩む。生きていくうえで立ちはだかる、正解にない問題を、考えることのできる人間は、今まで生きてきた中の経験で乗り越えていかなければならない。ただ、まだ子供である高校生には、それを突破していくための地図を持っていない。だから、大人が道標となり導いていく必要がある。けれども僕は、まだ大人になれていない。
いくつかアドバイスをしてみたが、首を傾げるばかりだった。いまいちピンときていない様だ。雰囲気はどんよりしていた。
「そういえば、黒嶋君には相談してみたの?幼馴染なんだよね。みんなが、まるで夫婦みたいだ、なんて言ってたよ」
空気を和ませようと冗談っぽく言ってみたが、中野は最初の状態のように俯いてしまう。
あ。地雷踏んだ。
「ごめんごめん。冗談で言っただけだから気にしないで。いやー、夫婦なんて言われたら嫌だよね」
「いや、それは別に前から言われているので慣れちゃいました。別に付き合っているわけでもないし、本当に大切な幼馴染なだけなので。そこじゃなくて。最近、
吹(すい)が凄いそっけないんです。」
少し潤んでいるような眼をしていた。これも原因の一つか。
「突然なんです。急に会話がぎこちなくなって。変な話、私に慣れていないというか」
「でも、お幼馴染なんでしょ?会話に慣れてないっていうのは、確かに変な話だね。何か思い当たることはあるの?」
中野は少し考えるように、机に肘を付け、手の甲の上に顎を乗せた。
「ええと。この前、放課後に一人で帰っていたら、吹が前にいたんですよ。最近あんまり話してなかったし、だから吹のところに走って行って、驚かせようと思って、背中に飛びついたんですよ」
「え、いきなり飛びついたの?」
「いや、最近あんまり話してなかったし、何て話しかけたらいいのか分からなくて」
「それで」
「めっちゃ驚いてくれたんですけど、私だと分かったら『やめろ!』って言われちゃって。その後、ばつが悪くなって。小さな声で『ごめん』て言って早歩きで帰っちゃったんですよ。私がいきなり飛びついたのが悪いのは重々承知なんですけど、そんなに拒絶しなくても…のに。や…くし…のに」
中野の表情がどんどん暗くなるにつれて、声がどんどん小さくなっていた。最後の方は聞き取れなかった。ただ、こっちの方はそこまで心配することでもなさそう。
「突然飛びつくのは怖いからね。でも、幼馴染なんでしょ。そんなずっとこのまま話さなくなるってことはないんじゃない?」
「そうだとは思うんですけど。こんなこと初めてで」
「まあ、そんなに気にしなくてもいいと思うよ。いつまでもそんな態度取らないと思うし。大丈夫だって」
「なんでそんなに言い切れるんですか」
「先生の勘ってやつだよ」
分かりやすくため息をつかれた。今後、中野が僕に人生相談することはなさそうだ。
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