序章 後半 レッド・ローズ

 

 「ふふっ、かわいいコですこと♡」



 「キューー!! キューー!!」



 人型でありながら、口を無くした怪物は、代わりに癒着しているようにも見える異様なストロー状の口で、ローズの腹部を狙い刺そうとする。 


 プラスチックのようにしなやかでありながら、その強度はメタル合金のナイフのようであり、一度刺されば貫通は容易に想像できた。


 

 「このコはまだのようですし、至急楽にしてあげましょうか」



 蝶々型の害虫には特徴がある。


 しなやかな動きをもつ個体も居るし、今回の例のように武器を器用に動かす個体もいる。


 「けど、たちには、体力が無い」


 

 さっきまで隙のなかった鞭が、2分ほどで急に鈍くなる。


 速さがなければ、当然働く重力によってその鋭利な武器は力を失い、もはやその長すぎる口は足手まといにしかならない。



 「幸い、このコはまだ飛行能力を手に入れていないようですし、早めにオイタしちゃいましょう♡」



 刹那の間、ローズは害虫に肉薄する。


 それは到底理解できない動きであり、虫も対応することを強いられるが、その応答はできなかったようだ。



 「キ!?!!? 」

 


「楽に払って差し上げましょう

愛に痛みはないでしょう? 

   『愛の死突レッド・ローズ』」



 一度思考を止めた蝶が、次に見たのは走馬灯だった。



  胴体を真っ二つにされて、突如死を与えられた虫は、羽の鱗粉を全て落として、灰になって行く。    



 「んー? ろーちゃん早いねぇー! 」



 「じゃ、帰りましょうか、リリーさん」



 パシっとはならないものの、固く手を握り合った二人は、行きにはない安らぎを得て帰路に着くのだった。




 


 

 

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アネモネ・バレット 雷麦 @raimugi0628

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