序章 前半 フラワー・ガーデン
30XX年、令和より、人間の生活習慣が変わることは無く、人々は日々働き、収入を得て暮らす。
今までと何も変わらない。
ただ一つを除いて。
緊急指令発生!!緊急指令発生!!
大きな工場にも、学校にも見える建物、その中に放送が響き渡る。
そして、呼応するように建物内にも喧噪が広がっていく。
それは、周りと比べれば奇妙に思えるほどに静寂とした司令室にも。
「司令塔!
「……危険度は」
「はい! 恐らく1の個体です!!」
「…なら、適当に2人派遣しな」
それを聞いた少女は、きっちりと着こなした制服が崩れてもおかしくないような速さで、返事する時間すら作らず部屋を飛び出す。
司令塔と呼ばれた女性は、騒々しい。と一言添えて、椅子に腰掛けた体を後ろに倒して、刹那のうちに寝息をたてて睡眠を始めるのだった。
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派遣連絡!! 派遣連絡!!
B棟! 5号室! 生徒ローズ! 同室生徒リリー! 至急西花盛町へと向かわれたし!!
「お、私たちがお呼ばれされましたね、リリーさん」
「そーだね! 行こ! ろーちゃん!」
幸い、西花盛町は、この建物があるところからは近辺なため、二人は小走りで向かう。
「……うん! かーちゃんが言ってたのはここら辺だわ! ろーちゃん!」
「あまりカモミールさんをかーちゃんと呼ぶのは控えたほうが………、まぁ許してくださるでしょう」
と、二人が5分ほどかけて到着したのは、活気あふれる住宅街……ではなく、空虚な空間の中。
しかしそれは二人にとっては安心材料である。
「うん! 皆さまももういらっしゃらないようですし、カモミールさんが伝えてくださったようですね」
「よーし、誰一人いないならマックスでバチボコだよ! っと、一人はいるのか」
リリーの声に呼ばれたように、空間の壁際で蹲っていた生物が二人の方へと首を傾ける。
「キュキュールーーー!!!!」
「うーん、やっぱり害虫ちゃんの声はちょっとうるさいかもー?」
その生物は人型でありながら、背中からは羽を立派に生やしていて、虫にも似つかない咆哮をする。
羽から鱗粉を落とすその姿はまるで蝶々である。
それは害虫、自然だけではない。人にまで危害を加える、悪である。
「そうですね……今回は私一人で大丈夫でしてよ?リリーさんはもしかしての時のために力は取っておいてください」
「あいよー、たのんだよ! ろーちゃん!」
と、金色の髪をなびかせながら、リリーはトテトテと空間の端に寄る。
「ではでは、お待たせいたしました、フラワー・ガーデン、ランクB ローズ お相手よろしくお願いします」
『開花』
突如少女の一言と共に足元に大きな薔薇が現れ、少女を包み込む。
そして蕾になったかと思われたところで、再び開花し、その中からは、先ほどの金髪は赤に染まり、澄んだ水色だった瞳には、草原色が宿った少女が現れる。
《情熱の赤、愛情の赤、恋の赤、薔薇は愛をひたすらに求める。自分の棘も厭うことなく。》
「ではでは、害虫は私の愛で潰してしまいましょう♡」
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