27-01 透明
「マミさん、どうしたんだろ。大丈夫かな?」
朝のホームルームが終わると、いつものように集まった一同は、誰からともなくこっそりスマホを確認した。
新学期初っ端から学校を休むというのは気軽にできることではない。
しかし、誰宛てにも連絡は来ておらず、優芽が今どんな状態なのかは誰にも何もわからなかった。
「サボり?」
隠しもせずにスマホをつつきながら、のろがへらへらと言った。
教室にはまだ担任の田沼がいるが、彼は生徒のスマホ使用に関して無頓着なので、没収されるということはない。
「まさか! マミさんはのろとは違うべ!」
夏休み中の登校日に姿を見せなかったのろは、みんなの予測どおり、あの日も家でだらだら過ごしていたそうだ。
優芽が代表で送った一応の気づかいメッセージにそんな内容の返事が来たとき、グループトーク画面は「ほら、やっぱり!」という反応で埋まった。
「でもさぁ、宿題が終わらなくて提出を伸ばすために~とかさぁ」
「ないない! マミさんなら、学校が始まれば人に頼られる機会が増えるって張り切って登校してくるはずだよ」
古瀬の考察に、のろだけでなく他のみんなも「あー」と納得の声をあげた。
田沼に雑用を押しつけられず、語学部の活動もなかった夏休み中、優芽は人の役に立つ機会が激減して、きっと干からびたようになっていただろう。
かけはしでのボランティアなんかもあったが、それだけで十分潤うとは到底思えない。
一滴でも水があれば、もとい水のありそうな所になら貪欲に這っていくのが彼女だ。
となると、やはり優芽は体調が悪いのだ、という結論に一同は達した。
寝込んでいて、スマホもいじれない状態なのだろう。
「お~い、マミさん、大丈夫~? ……と」
のろは呑気な感じでそう言いながらメッセージを打って、グループトークに送信した。
これで体調が落ち着いたときに、優芽から何かしらの反応があるだろう。
しかし予想に反してその日、優芽からは返事はおろか、既読がつくことすらなかった。
「おかしい」
次の日、のろのスマホをみんなで覗き込んで、一同はいぶかった。
「相当な高熱なんじゃないの?」
「普通、症状が落ち着いてきたらなんとなくスマホ見たりするよね?」
「事故に遭ったとかだったらどうしよう……」
紬希の早計に思えるひと言にみんなはギクッとした。
俄然心配が膨らんで、一同は田沼を捕まえて優芽のことを聞いてみた。
引きとめられた田沼は、あからさまに迷惑そうな顔だ。
「家からは体調が悪いと連絡を受けてる。それ以外は知らん」
自分が出ていくはずだった廊下の方にチラチラと視線をやりながら、彼は出席簿でパタンパタンと太ももを打った。
「お前ら仲良いんだから、俺に聞くより直接連絡すればいいだろ!」
「連絡しても既読すらつかないから聞いてるんじゃないですか!」
優芽の状態が知りたくて必死になっている生徒たちに田沼はヘッと笑った。
「一日連絡がつかなかっただけだろ? まあ、待っとけ」
スマホを介して一瞬でやり取りできるのが当たり前の現代っ子は、ちょっとそれが滞っただけでパニックになる。
取り立てて言うほどでもないことを大きく捉えすぎだ。
これだから最近の若者は。
そんな呆れがハッキリと言外に表れていた。
むくれたり、しゅんとしたりの生徒を尻目に、田沼はもう話は終わったと判断して、跨ぎ損ねた教室の敷居を改めて跨ごうとした。
が、その足が止まって、「そうだ!」とまた生徒たちに向き直った。
「そんなに気になるなら、放課後プリントを家まで届けてやってくれ。新学期早々の手紙はお知らせだらけだから、手元にないと困るだろう。そのとき本人の様子を見ればいいじゃないか」
田沼は嬉しそうに言った。
面倒事を生徒に押しつけて喜ぶのは相変わらずだ。
もしここにマミさんがいたら、すぐさま「わかりました」って答えていただろうな。
生徒たちは思わずそんなことを考えた。
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