26-10 反転の里
「ここは無意識の世界で、優芽が探しているのは、そこに閉じこもってしまった紬希の意識だ。何度も言うが、ドリームランドは思いのままに操れるものではないし、この世界は独自の秩序に従って動いているだけだ。優芽の願いを紬希が叶えているわけでも、ドリームランドが意思を持って応えてくれているわけでもない」
「無意識とか……意識とか……難しいな?」
優芽はしんどそうに顔を歪めた。
上るのが二度目だからだろうか。
再び頂上を踏んだとき、優芽は一度目よりも苦労を感じなかった。
とは言え、心臓はバクバクと脈打っている。
膝に両手をついて肩で息をしながら、優芽は二度目の神社中心部を眺めた。
さっき見たのと、寸分たがわぬ光景だ。
正面には社殿があり、右手には手水舎がある。
ここで安心して社殿に向かってしまえば、また石段の前からやり直しだ。
まずは手と口を清めなければならない。
優芽は手水舎に向かい、肩のモルモルに次に自分がしなければならないことを読み上げてもらった。
「右手で柄杓を持ち、たっぷり水をくんだら、その水の三分の一程度を使って左手を洗う」
モルモルはお守りから出てきた紙を広げて持っており、まるで新聞を読んでいるみたいだ。
優芽は言われたとおり、伏せてあった柄杓を右手で取った。
水盤はなみなみと水をたたえており、竹でできた吐水口からはチョロチョロと新しい水が流れ続けている。
優芽はモルモルに言われるまま、左手を洗い、右手を洗い、また柄杓を右手に持ち変えた。
「こんなにも手順が細かいなんて……そういえば現実でもこんなふうにしてる人を見たことある気がする」
口をすすぎ、もう一度左手を清め、最後に柄杓を立てて残りの水で柄の部分を清める。
水盤に渡されている竹に元通り柄杓を伏せ、優芽はほっと息を吐き出した。
なんとか間違えずにできたようだ。
ハンカチで手と口元を拭いて、優芽は次の指示をあおいだ。
「次は?」
「特に何も書かれていない」
思わず、優芽はハンカチを落としそうになった。
「えっ、どういうこと? もう大丈夫ってこと?」
作法の必要なポイントは全部クリアして、もう戻される心配はないのだろうか。
それとも、お守りの紙には優芽のお願いどおり、閉じ込められた状態からの進み方と戻り方のみが書かれていて、まだジンチュウ様に詣るには注意が必要なのだろうか。
優芽はこわごわ、社殿へと伸びている中央の玉砂利の道へと戻ってみた。
今のところ、あの違和感はない。
「……何も書いてないなら、進んでみるしかないよね」
モルモルは紙をたたみながら、頷いた。
石段のときと同じくセーブポイント制なら、また作法を間違えて戻されることがあっても、今度は手口を清めた手水舎からやり直せるはずだ。
それに、にっちもさっちも行かなくなったらまたお守りに頼ってみればいい。
鳥居のときと違って、手元に攻略本があると思うと、優芽は前向きな気持ちになれた。
一歩一歩進むごとに、足元からジャッジャッと音があがる。
社殿までの道はそんなに長くない。
それは四角形に屋根がのった、小さなお堂という感じの建物だった。
全体的に色褪せた茶色をしていて、古びた印象を受ける。
房と
社殿の階段の前まで進み、優芽は困ってしまった。
とりあえず、紬希かジンチュウ様に会えるよう念じながら二礼二拍手一礼してみたが、何も起こらない。
例の違和感とともに巻き戻されなかったということは、今のところ作法をすっ飛ばしてはいないのだろう。
でもこれ以上何をすればいいのかわからない。
「どうしよう。またお守りに聞いてみた方がいいかな」
「この建物の中を探してみたらいいんじゃないか?」
「ええっ。神社の中に勝手に入ったらダメでしょ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます