26-08 反転の里
「何で? 何でっ!?」
おもむろに石段の頂上を見上げる。
「……またこれを上るの? 鳥居のときみたいにまた何回も戻されるかもしれないのに……? 無理ーっ!」
頭を抱えた優芽を、モルモルがぽふぽふと背中をなでて慰めた。
「セーブポイント制で良かった。鳥居の前からやり直しだったら、またくぐり方を見つけるところから始めなければならなかった」
ポジティブな考え方ではあるのだが、全然ラッキーと思えない。
「これは無理! 本当に無理! 心が折れた!」
この急な石段を何度も上るのは無理だ。
一回上っただけで、だいぶ体力が削れたというのに。
「ああ……こんなとき紬希がいればなぁ」
その紬希のドリームランドに困らされているというのに、優芽はそんなことをつい口にした。
でも紬希なら、こんなときも次々に法則を見出だして、見事切り抜けてみせるに違いない。
「今さらだが、おばーちゃんとやらの話をきちんと聞いておけば良かったかもな」
ジンチュウ様に詣るには作法があってね――
優芽は老婆がそう言いかけたことを思い出した。
作法を守らなければ詣ることができない。
つまり、そういうことなのではないだろうか。
今思えば、ドリームランドの住人の持つ独特さや話の内容を自分が勝手に気味悪がっただけで、民家の人たちは一貫して親切だった。
ここは紬希のドリームランドで、あの人たちもその一部だ。
ならば、信頼すれば良かった。
紬希は物知りで、たくさんの考えを持っていて、ルールや善悪に厳しいところがあって、そして、とても優しい。
あの人たちも、真摯で優しいに違いなかったのだ。
優芽が紬希を探していると言ったからジンチュウ様のことを教えてくれたし、どうやったらそれを詣ることができるのかもしっかり伝えようとしてくれた。
裏返ってしまった紬希がひとりきりになりたいのか、助けてほしいと思っているのかはわからない。
でも彼女は、紬希を探しに来た優芽に対して、自分にたどり着く道をきちんと示してくれていたのだ。
「こうなったらあの家に戻って、今度はきちんと詣り方を教えてもらおう」
モルモルをまた抱っこして、優芽は一度神社を出る決心をした。
石段とご神木を後にし、入り口の鳥居をくぐる。
と、また違和感だ。
優芽はくずおれそうになった。
「……はあ?」
鳥居を出たはずなのに、優芽は鳥居の内側に立っていた。
入るときと逆だ。
愕然として、優芽は意味もなく目の前の景色を眺めた。
赤い門に切り取られた日の光いっぱいのソトが、やけに眩しい。
「閉じ込められた……」
「閉じ込められたな」
立ちくらみがする。
「えっ、どうするの……進めないし、戻れない……どうしようもない?」
抑えきれない絶望が勝手に言葉になって、口からこぼれ出た。
モルモルは特に何も言ってくれない。
――優芽はドリームランドから必ず帰ってこられる保証がない。もし帰ってこられなければ――
最悪の展開だ。
モルモルも助けられず、紬希も助けられず、優芽はここで永遠に閉じ込められるのだ。
自身の無力さに身もだえながら。
自分がここで終わるのはべつに良い。
でも、この世界で紬希に会うことすらできずに終わっていくのは、あまりにも無念だった。
「どうしよう……どうしよう……そうだ!」
悩んだ挙げ句に思いついたアイディアは、実に優芽らしかった。
彼女は抱えていたモルモルを肩に乗っけて、空いた両手をパンッと合わせた。
「鳥居をくぐれたときみたいにお願いしてみよう! 紬希様~……!」
神頼みならぬ、紬希頼みだ。
ここは紬希のドリームランドだから、ある意味紬希は神で、間違いではないのかもしれない。
ジンチュウ様、という存在もあるのだし。
「お願い。どうやったら進めるの? 戻れるの? 教えて……」
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