26-07 反転の里
そもそも自分は考えるとかナゾを解くとかいうことが苦手なのだ。
こんな状況、意地悪ではないか。
「あ~もう! お願い、通して! 紬希様~!」
ヤケクソになった優芽はそう言って頭を垂れて拝み、だっと鳥居をくぐった。
「……あれ? 嘘……何で!?」
すると、鳥居をくぐることができたではないか。
優芽は鬱蒼と葉の茂る木々に囲まれた、うす暗い参道に立っていた。
ガバッと振り返ってみると、そこには鳥居が建っていて、その向こうには金色の田んぼが波打っている。
「くぐれた……」
「そうだな。どういう条件だったのかサッパリわからないが良かった」
モルモルは優芽に抱えられたまま、いつもの起伏のない声で言った。
その言い方はいつも通りには違いないのだが、なんだかガクッとくる。
嬉しさとか安堵がにじんだ言い方ならまだマシだったのだが、これでは「バカが二人」という感じだ。
心の中でチーンと残念な音が鳴った。
何はともあれ、くぐれたのだから何でもいい。
「よし。じゃあ、奥を目指すぞっ!」
優芽はキョロキョロと辺りを見回しながら進みだした。
左右には年季の入った石灯籠があって、これから上る急斜面のような石段の両側にも同じものが等間隔に置かれていた。
その階段の手前には、一本だけ特別立派なくすのきが立っている。
神社や鳥居と同じ、神聖なものなのだろう。
何人かで両腕を回してやっと一周できるような幹にはしめ縄が巻かれ、
幹の表面はごつごつとウロコのようで、深緑色の苔や地衣類をまとっている。
しっかり地面に張られた太い根は、コブみたいに盛り上がって、生命力の塊みたいだ。
樹皮をたどって仰いでみると、幹は途中から二本、三本と分かれて、さらにそこから太い枝、そして細い枝へと分かれていき、豊かすぎるくらいに葉を蓄えていた。
空に向かって大きく伸びているそれは、まるで屋根のようだ。
「ご神木ってやつだね」
独り言を呟いたところで、優芽は視線を石段に戻した。
直前で立ち止まって見上げてみると、上がった先は森に呑み込まれたようになっており、どんな様子なのかわからない。
全体的にうす暗い空間では、階段に落ちる木漏れ日が温かく、映えて見えた。
もちろん手すりはなく、一段ずつがガタガタと不揃いで、バリアフリーとは程遠い。
足腰が鍛えられそうだ。
ため息をひとつ吐いて、優芽は無言で頂上を目指し始めた。
階段を上れば上るほど、辺りはさらに山深くなっていく。
木々の奥には木々しかないし、階段の両脇には落ち葉が堆積し、
すぐに息が上がり、優芽はうつむいて、ひたすら足を動かすことしかできなくなった。
石段には枯れ葉や小さな枝がパラパラと落ちている。
やっとの思いで上りきり、優芽はしばらく立ち止まって息を整えた。
そして、ゆっくりと顔をあげると、自分が神社の中心部にたどり着けたらしいことを確認した。
足元から正面に向かって玉砂利の道が伸び、その先には茶色く寂れた小さな社殿がある。
道の両側は落ち葉や苔などに覆われた地面で、石灯籠や狛犬といったものはない。
唯一、優芽のすぐ右側に屋根のついた
やっと着いた。
優芽は安堵して、社殿に向かって歩き始めた。
と、違和感を覚えた。
「……ん?」
目の前にはあの、見上げるような石段がそびえている。
その手前には立派なくすのきが鎮座し、後ろを振り返ると鳥居、その奥には田んぼが見える。
「……んん?」
優芽は信じられない気持ちになって、しばし茫然とした。
やがて、その体がわなわなと震えだし、奇声が響く。
「戻ってるーっ!?」
悲鳴は深い緑にすぐさま吸収され、あたりはまたシンとした。
優芽は崩れ落ちた。
ゆるんだ腕からモルモルが滑り落ちる。
ここに来てから初めて地上に降り立ったモルモルは、呑気に二、三度地面を踏んで、その感触を確かめた。
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