25-06 くるくるストリート

「もし良かったら、今後もまたボランティアとして助けてね。みんなが助っ人に来てくれたら、すごく心強い!」

「もちろんです!」

 巽と優芽の声が重なって、二人は顔を見合わせて笑った。



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 お疲れさま会を終えて、優芽と紬希はかけはしのテントを後にした。

 二人が目指したのは、いつもお昼に利用しているドーナツ屋だ。

 あの店もイベントに参加しているはずだが、一体どうなっているのだろう。



 たどり着いてみると、店舗の前には出張販売のときの売り場が組まれ、緊張した顔の子どもたちが売り子として立っていた。

 子どもたちは店員とお揃いのユニフォームを着ていて、小さくてもしっかりお店の人だ。


「いらっしゃいませえ!」

 優芽たちが立ち止まると、子どもたちから一斉に可愛らしい声が飛んできた。


 並んでいるのは定番のドーナツばかりだ。

 目立つところに張り紙がしてあり、「お持ち帰りのみ」と大きく書かれている。

 どうやら、ここにないドーナツが欲しい人や中で食べていきたい人は、店内で商品を購入しなければならないらしい。

 でも、子どもたちに期待の目で見つめられたら、ついつい店外で買ってあげたくなるものだ。

 二人は適当にドーナツを選ぶと、子どもたちの「ありがとうございましたあ!」という声を背に受けながら、今度は空いているベンチか何かを探して歩き始めた。



 歩きながら、優芽はいよいよ違和感を募らせた。

 なんだか紬希の元気がどんどんなくなっている気がする。

 いつも通りと言えばいつも通りなのだが、やはり時々反応が遅れるし、会話の切れ目で黙っているときの表情はなんとなく沈んで見える。


 疲れたのだろうか。

 それとも彼女のことだから、工作での失敗や反省を引きずっているのだろうか。


 それとなく声をかけてみると、紬希はサッと笑顔を取り繕った。

「え? どうもしないよ? てか、さっきのドーナツ屋さんの子どもたち、頑張ってたね」




 それに比べて、自分はどうだろう。

 紬希は胸の中で、口に出して言った言葉の続きを呟いた。




 やはり紬希は疲れていた。

 それも単純な疲労ではない。

 彼女の精神は、コンテスト本番の後から壊れたままだった。



 いつも通り振る舞うことはできる。

 でも、笑っていても、楽しくしゃべっていても、いつも心の中が沈痛な思いで満たされている。



 特に理由もなく、紬希は自分が失敗ばかりしているような感覚に陥っていた。

 ボランティアでは自分は役立たずだった。

 そればかりか、問題を起こしてしまった。

 材料をムダにし、子どもたちを不安にさせた。


 紙コップのバタバタ倒れていく光景が、強い苦痛とともに何度もフラッシュバックし、彼女を苦しめる。

 あのとき優芽がフォローのひと声をかけてくれなかったら、自分は子どもたちに再びコップを倒させていただろう。

 頭の中で何度も失敗を再体験し、何度もあのときの絶望にも似た気持ちにさらされて、紬希は自分がたまらなく嫌になった。




「紬希!」

 突然片手をとられて、紬希はハッと顔を上げた。

「しゃぼん玉しようよ。ねっ?」

 その脈絡のなさとまっすぐな視線からは、明らかに気づかいがにじみ出ていた。


 元気付けようとしてくれているのだろうか。

 もはや頭が回らず、当たり障りないリアクションを返すことすらままならなかった。


 あまりにもヘタクソなはぐらかし方だったから、いよいよ不調がバレたのだろう。

 憔悴した顔を向けることしかできないでいると、優芽の手のひらが、紬希の手のひらに重ねられた。



 優芽は優しい。

 物事に自分からチャレンジしていけるし、臨機応変に動ける。

 人を助け、新しい世界に引っ張っていくことだってできる。

 不安にがんじがらめで身動きのとれない自分とは、大違いだ。



 優芽の手のひらが離れたとき、紬希はぼんやりと思った。

 ああ、自分も優芽ちゃんみたいだったら良かったなあ。



「紬希っ!?」

 その瞬間、紬希のいたはずのところに、彼女の身長くらいのしゃぼん玉が現れた。


「ああっ!」

 優芽のうなじから、今まで聞いたこともない、モルモルの悲鳴があがる。

「紬希が、裏返ってしまった!」

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