25-03 くるくるストリート

 かけはしのテントからは見えないが、オープニングセレモニーが開かれ、ついにイベントは開始した。

 とはいえ、最初は来場者も少ないし、どの子もスタンプがたまっていないので暇だ。

 三人は気楽にしゃべりつつ、子どもたちが訪れるのを待った。


「英語スピーチコンテストに出たの!?」

「はい」

 という話になると、やはり巽は紬希の優秀さと、大変な本番を終えたばかりなのにボランティアに来た、ということに二重でビックリしていた。

「若者は体力あるなぁ」

「ドラゴンさんも若いじゃないですか!」

 笑ってツッコんだ優芽に、巽は「ありがとう!」とおどけた。



 街路樹から降り注ぐセミの声に子どもたちの楽しげな声が混じり始めるのはすぐだった。

 ブースの前を通りかかる子たちは様々だ。

 熱心にパンフレットを見て、行きたい所を厳選する子。

 スタンプをさっそく使ってみたくてたまらず、片っ端からあれやりたいこれやりたいと騒いで、親に「いろいろ見てからにしたら?」とたしなめられる子。

 子どもたちだけで連れ立って歩いているグループ。

 園児、小学校低学年、高学年。


 まだ少ない貴重なスタンプだから、使うよりも貯める方に重点を置いている子は多いようだった。

 時おり見かける羽振りの良い子は、多分不要になったオモチャの寄付をした子だろう。

 寄付は査定の待ち時間が発生するものの、オモチャの数や質に応じてスタンプがもらえる。

 イベント開始直後で空いている今、早く、多く貯めるにはもってこいだ。


 ちなみに、寄付されたオモチャには値札がつけられ、他の子がスタンプで買い取ることができる。

 つまり、リユースというわけだ。



 イベントでの買い物には普通に現金も使える。

 そうしないと大人は買い物ができないし、子どもだって貯められるスタンプには限度があるからだ。

 それに、子どもたちがスタンプを貯める手段のひとつである職業体験には、売り子体験なんてものもある。

 体験中は出来れば呼び込みだけでなく、実際にお客さんが買い物に来た方が面白い。

 現金が使えることは、そういう望みをある程度保証するのにも一役買っていた。

 あるかはわからないが、可愛い我が子に体験をさせたくて、親がわざわざお客さんになるということもできる。



 そうして、通りすぎるいろんな子や周りのブースの様子を見ながらのんびり過ごすうちに、かけはしのテントにもぽつりぽつりと子どもが訪れるようになってきた。

 最初は一度に訪れるのがひとりとか二人だったので、スタッフにもおしゃべりしながら対応する余裕があった。

 巽考案のニックネームも話のタネにはなかなか具合がよくて、「ドラゴン? 変なの!」、「マミさんの本名はマミなの?」、「ねえ、なんでムッギって名前にしたの?」と興味を示してくれる子もいた。


 でも時間に比例して来場者数が増え、子どもたちのスタンプが潤ってくると、ブースは目の回る忙しさとなった。


「何色のスライムにするか決めておいてね!」

「色混ざったー!」

「早く次の作業したいっ!」

「ごめんね! ちょ~っと待っててね!」


 こういう事態に備えて、ゆとりのある間に材料のストックを作っておいたのだが、バタバタしだすとすぐに使いきってしまった。

 子どもたちはそれぞれやっている工程も作業スピードも違うから、一度に同じ材料を用意して出すこともできず、効率が悪い。

 隙間隙間で急いで作り増しても、客足の波が来るごとに瞬時にしてゼロになり、いたちごっこだ。


 それでも、テントの外に並ぶ子がでてきたことを受けて、スタッフは一度に工作する子どもの人数を増やして対応することにした。

 参加者の中には分別のつく年齢の子もいたから、多少材料の供給が滞っても作業は回ると判断したのだ。



 紬希は余っていたイスを受付前に置いて、順番待ちのスペースを作った。

 本当は工作の応援にガッツリ入りたいが、混めば混むほど受付での案内や誘導も大事になってくる。

 飲食店のホール係みたいに、受付と工作の机を行ったり来たりして、複数の役割を同時にこなしていった。

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