第五章
25-01 くるくるストリート
優芽はわくわくでホームへと降り立った。
駅から出て、少し歩くと大通りがある。
須藤にボランティアを頼まれたイベントの会場はそこだ。
今日を楽しみにすると同時に、優芽はつい先日スピーチコンテストを終えたばかりの紬希を心配してもいた。
慣れないホールでの英語漬けには優芽も疲れた。
居眠りしながらの自分でさえそうだったのだから、あんなにも緊張して、本番までこなした紬希はもっと疲れたはずだ。
でも紬希は遅刻もしなかったし、会話していても普通だった。
さすが紬希。
優芽はいつも通りしっかりしている彼女に感心した。
ただ、たまに反応が遅れるときがある気もするが。
歩行者天国の入り口が見えてきて、優芽と紬希は二人して驚いた。
「わあ、なんかいつもと違う!」
通行止めの看板が置かれ、道路には大きめのテントがずらっと並んでいる。
足を踏み入れ、準備に忙しい色んなブースを眺めつつ歩いていると、大通りから中に入ったところにあるアーケードもイベントのために様変わりしているのが見えた。
店舗の外で販売ができるよう机が出され、店員は必要な物品を並べている。
アーケードの入り口にはミストアーチも出現していた。
すだれや風鈴、フェイクグリーンで装飾されていて、いかにも涼しげだ。
直射日光を浴びることになる大通り組も熱中症対策に抜かりはない。
冷風機や大きなファンなんかがぽつぽつと置かれ、なんとかして涼をとれるよう工夫してあった。
歩行者通路の頭上にはミストも備わっている。
二人はずんずん進み、かけはしのテントへとたどり着いた。
展示コーナーはすでに設置完了しており、中では須藤と、もうひとり見知らぬ背中がせっせと動き回っている。
「おはようございます!」
優芽が大きい声で挨拶すると、二人が作業をやめて、振り返った。
「おはよう!」
須藤はすぐに駆け寄ってきて、優芽と紬希に小さく一礼した。
「今日はお手伝いありがとう。よろしくね!」
その後ろから男性がやって来る。
話に聞いていた、今日一緒にボランティアをする大学生だろう。
須藤の横に並ぶと、その男性は大きくがっしりとして見えた。
「おはようございます。宇津井優芽さんと久我紬希さんだね?
須藤の言っていたとおり、はきはきとして感じのいい人だ。
黒縁メガネが特徴的で、前髪を上げた、スポーツでもしていそうな短髪には清潔感がある。
巽のことを優芽と紬希はすぐに信頼できると感じた。
おまけに、優芽は巽からなんとなく教師っぽい雰囲気を感じた。
もしかしたら、将来はそういう職に就く人なのかもしれない。
須藤からボランティアスタッフと印字されたネックストラップをもらって、二人は首から下げた。
同時に渡された、保冷剤タイプのネッククーラーもさっそく装備した。
来場者が熱中症になるのもいけないが、スタッフが倒れるのも問題だ。
会場では、どのテントのスタッフも帽子をかぶり、首に何かしらを巻いたフル装備で対策をしていた。
テントで日光は遮られるが、暑いものは暑い。
優芽と紬希は貸してもらったネッククーラーの冷たさにひとしきりはしゃいでから、工作コーナーの設営に加わった。
テントの中ではすでに長机がくっつけられ、そこに可愛らしい柄のビニールシートがかぶせられている。
巽に頼まれて、二人はシートの垂れ下がってヒラヒラしている部分を丁寧に折り込み、ピッタリするようテープでとめた。
「すげぇ、シワも寄ってないし完璧だ!」
二人の仕事振りを巽は大げさなリアクションで褒めた。
こんなことでそんなに喜ばなくても、と二人は思ったが、子ども扱いしてわざとそうしたわけではないみたいだ。
心からそう感じて無邪気に振る舞っている巽に、二人はさらに気を許した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます