22-12 納涼祭

 もしかしたら、盆踊りをやめたら紬希が気にすること見越して、あえてみんなが踊り続けるよう仕向けてくれたのかもしれない。


「踊りまくって疲れたあ~」

 盆踊り組はそう言ってどかっとベンチに腰をおろした。

 四人で座ったらぎっしりで、どう頑張っても古瀬と虹呼の座れる余地はない。

 他のベンチで休んでもらうしか……と考えたところで、紬希はハッとした。


「そうだ、優芽ちゃん。フミ子さん!」

 弾かれたように立ち上がって隣のベンチを見た。

 しかし、いつの間にかそこは空だ。

「フミ子さん?」

 なんでその名前が、という様子の優芽に、紬希はさっきまでそこに渡辺夫婦が座っていたのだということを説明した。

 フミ子さんが介護保険を使い始めたことなどを伝えると、優芽は心底嬉しそうに顔をほころばせた。

「そっかあ。良かったなあ。あたしもまた会えるといいな!」

 優芽の言葉に、紬希は強く頷いた。



 ――みなさま、お待たせいたしました。これより花火の打ち上げを開始いたします!


「あっ、花火始まるって!」

「写真撮ろっと!」

 アナウンスが入って、みんなそわそわと空を見上げた。



 夜空に光が尾を引いて昇っていき、パッと咲く。

 思わず観衆から声が上がった。

 赤や緑の光の点が勢いよく広がりながらキラキラと瞬き、入れ替わるように新たな光の点がパッと咲いては、また大きく広がって消えていく。


 ぽんぽんぽんっという音。

 一度にたくさん昇っていく火球。

 下の方から順に咲いていって、上にいくほど大きく開く。

 そして、てっぺんに浮かび上がるようにして現れた花火はすうーっと橙色を広げ、それが思いのほかどこまでも伸びて巨大になったことに、観客が沸いた。


 後から聞こえるドオンという音で、空を見上げる人々の体がビリビリと震える。

 花火が大きければ大きいほど、体に伝わってくる衝撃も大きい。


 パチパチという爆ぜるような音、ヒューンという笛のような音。

 いろんな音が、いろんな強さで観客の体を揺らす。


 パパパッと小さなものが連続して開く花火、眩しいほどに強く白く輝く花火、それとは反対に、落ち着いた色味のススキの穂のような形をした花火。

 スマイルマークやハート。

 数えきれないほどの種類の花火が夜空を飾った。



 やがて、たたみかけるような打ち上げ方に変わり、花火と花火が重なるようにして空を埋めつくす。

 様々な色、形、音、大きさ、輝き方が入り乱れ、魅了された人々はワーッと喜んで拍手した。



 ヒューと大きな音をたてながら噴水のような花火が左右に広がり、ひっきりなしだった打ち上げが一瞬やんだ。

 そして、頭上いっぱいに堂々の大輪が現れる。


 遅れて聞こえてきた音がズドンと響き、盛大に広がった花火は、まるで光の雨が降り注ぐみたいに地面までしなだれた。

 その光の線が消える、と思った最後の最後。

 パリパリパリッといいながら、それはもう一度細かい点になってキラめいて、その後正真正銘、夜空に吸い込まれていった。



 辺りがシンとする。

 今の一際大きな花火がラストだったのだろう。

 やがて、誰からともなく拍手が始まって、会場のあちこちから「すごかったー!」、「きれいだったね!」と満足の声があがった。


 ――本日の納涼祭は以上で終了となります。お越しいただき、ありがとうございました。皆さま、お気をつけてお帰りください。



「最後盛り上がったねー!」

「思ったより豪華でよかった!」

 興奮冷めやらぬままこの場を立ち去るのは名残惜しい。

 でも、帰らなくては。

 互いに感想をまくし立てつつ、一同はゆっくり、ゆっくりと帰路についた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る