22-10 納涼祭
紬希はモルモルの前では饒舌になってしまって、そのことを失敗した、変に思われた、と激しく悔いた。
でもやっぱり優芽は、そんな後悔をいとも簡単にめくって、違う世界を見せてくれた。
そして、かけはし、変身、ゴミ拾い、フミ子さんの捜索。
ドナドナーである紬希を、優芽はいつだって新しい世界へと引っ張ってくれた。
なにも、そうやって紬希の手を引いてくれるのは優芽だけではない。
クラスのみんなはもちろん、語学部やかけはし。
全員が大切な存在で、感謝してもしきれない。
優芽との出会いを思い返していたはずが、今や自分と新しく関わりを持ったすべての人が脳裏に浮かんでいて、紬希は胸がいっぱいになった。
こんなの走馬灯みたいだ。
自分は死んじゃうのかな。
古瀬への返事を探して「あ~……」と目を泳がせる短い間に、そんな冗談まで思い浮かべて、紬希はふふっと笑った。
なんとなく照れくさくて、紬希は両腕を後ろに突っ張って背もたれ代わりにすると、さ迷っていた視線を再びグラウンドに向けた。
「ちょっと、きっかけがあって」
「きっかけ?」
「優芽ちゃんが、私のこと頼ってくれて。それでボランティアにも誘ってくれて」
「あー、わかる気がする。そういうのは私たちより紬希の方が合ってるわ」
古瀬は腕を組んで、うんうんと頷いた。
紬希は、古瀬が紬希のことをマジメだと思っているからそう言ったのだと思った。
でもそれよりも、古瀬は紬希の聡いところを買っていた。
自分では思い付かないような何かすごいことをやってくれそうな、それにつられて自分まで何かいつもと違うことができそうな、そんな気がするのだ。
「マミさんのこと、よろしくね」
「え?」
脈絡なくそう言われて、紬希はまた驚いて古瀬を見た。
でも彼女は長い足を足首のあたりで組んでゆらゆらさせ、その爪先を見つめている。
「マミさんって、誰かに頼み事されたら自分を蔑ろにしてまで応えようとするとこがあってさ」
「ああ……わかる」
紬希も両足を伸ばして、脱いだ下駄の上にかかとをのせた。
そうして古瀬の貼ってくれた絆創膏に視線を落として、彼女は二大リスクについて無関心な優芽を思った。
頼み事とあらば、後先考えず引き受けてしまう。
最初はそういう性分なだけだと思った。
でも虚ろやヘッブの暴走を怖がらない彼女を見ているうちに、違和感を覚えた。
そもそもドナーになることを二つ返事で引き受けたのは、優芽が自分自身を粗末に扱っているからなのではないか。
自分なんてどうなってもいい。
そういう気持ちがあったから、突然現れた怪物に食われることを、受け入れたのではないか。
勘違いなら、それが一番いい。
しかし、自己犠牲とは違う、破滅をいとわない心を優芽の中に感じるたびに、紬希は悲しい気持ちになるのだった。
古瀬は紬希の同意に苦笑した。
「いつかつらい思いするんじゃないかって心配なんだよね」
「うん……」
「私が何か言ったところで全然聞いてくれないし」
「わかる……」
紬希も苦々しく笑うしかなかった。
危惧している事態こそ全然違うものだったが、優芽に対して抱いているものは、二人とも同じだ。
「でもさ!」
言って、古瀬は足組みをやめて、紬希に身を乗り出した。
「紬希なら、マミさんにブレーキかけてあげられるんじゃないかって思うんだ」
紬希は目を丸くして古瀬を見上げた。
「仲良いし、しっかりしてるし、紬希の言うことならちゃんと耳を傾けるんじゃないかって思うんだ」
古瀬の顔は明るかった。
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