22-04 納涼祭

 浮ついた話のない六人は暴露できることも特になく、誰が一番先に彼氏ができそうとか、学年の誰々が付き合っているとかいうことに話題はシフトしていった。


「付き合ってる子たちは、やっぱ同級生と鉢合わせないお祭りに行くのかな?」

「いや、露店まわってるときに何組か見たよ」

「えーっ! 気づかなかった! 教えてよ! 誰?」


 こういう情報は顔の広い古瀬が得意だ。

 知っている名前を聞いた虹呼は、地べたに置いていた鞄をサッと担いで意気込んだ。

「よし、冷やかしに行こうぜ!」

「やめときな!」

 鞄をつかまれた彼女は、二、三歩でグエッとなって引き戻された。

 もちろん、この「グエッ」がやりたかっただけの冗談だ。

 ニャハハと笑って、彼女はまた鞄をおろした。

 古瀬はその後も何組か名前を挙げたが、バレー部繋がりや学年の違う生徒ばかりで、言われてもメンバーにはピンとこなかった。

 虹呼の悪ふざけをさせないために、わざとそうしたのかもしれない。



 やがてショーが終わる頃には、辺りはすっかり闇に包まれていた。

 こうなると提灯の明かりも映えて、ますます祭りという雰囲気が出てくる。


 盆踊り開始のアナウンスが入り、やぐらの上と周りには、揃いの浴衣を着た人たちがぞろぞろと入ってきた。

 ショーで人を集めた後に盆踊り、というのは運営側の策略なのだろう。

 浴衣の人たちは、ショー鑑賞後の興奮しているちびっこたちを、ここぞとばかりに勧誘した。

 付き添いの家族はあからさまに渋い顔だ。


「盆踊りに参加された方にはうちわを差し上げます!」

 そんなことを言いつつ、更には手当たり次第にうちわを配り歩き始める。

 押し付けられた人々が、無視してその場を立ち去ってもいいものか躊躇っているうちに、スピーカーからは誰でも聞いたことのあるポップスが流れ始めた。

 一拍遅れて、太鼓のリズムが打ち鳴らされ出す。

 やぐらにはお手本の踊り手の他にマイクを握った男性がいて、拳を突き上げ、ノリ良くスタートのかけ声を上げた。


 それを合図に、やぐらを囲む踊り手も一斉に同じ方向に動き始める。

 取り込まれた複数の親子連れも、仕方なしに見よう見まねで、ぎこちなく手足を動かし始めた。



「始まったね~」

「花火までもうずっとこれなんだよね」

 他人事みたいに眺めている彩生とのろに、虹呼がガバッと後ろからかぶさった。

「踊らにゃ損損!」

「ええ~っ!?」

 面倒くさそうな声を無視して、虹呼は前に回り込むと二人の手をぐいぐい引っ張った。

「虹呼組! 出陣!」

「ええー」

 抵抗する二人を、「まあまあ、付き合ってあげなよ」と古瀬が後ろから押した。

 こうなった虹呼を止めることはできない。


 彩生とのろさえ引きずっていけば、あとの二人は自然とついてきてくれるという算段なのだろう。

 その思惑どおり、紬希と優芽はそのまま団子になった四人の後に続いた。


「ニコ、グミ……?」

 歩きながら、優芽が首を傾げて呟く。

「グミって、一年一組とかの組だと思うよ。グループのことだね」

「はあ……なるほど」

 紬希の解説に、優芽は納得の表情で頷いた。


 ついでに言えば、踊らにゃ損損というのは阿波おどりの掛け声だ。

 紬希は虹呼がそのことを知っていて使っているかは怪しいと思った。

 阿波踊りを意識しているなら、グループのことはれんと表現するはずだ。

 でもそんなウンチクを披露する必要性などあるはずもなく、紬希はただ胸の中で思うにとどめた。

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