22-02 納涼祭
古瀬宅で軽く食事をしてきたおかげで、お腹は空いていない。
露店の食べ物だけでお腹を満たそうと思ったら、間違いなく財布が寂しいことになってしまうから、それは賢い選択なのであった。
とはいえ、せっかく祭りに来たのに何も買わないのも寂しい。
やぐらでは、演奏が終われば地元キッズダンスクラブの発表、キャラクターショーが続き、フィナーレの花火までは盆踊りが繰り広げられる。
それを遠目に見物しながら友達としゃべるのに、甘いもののひとつやふたつは欲しいところだ。
そんなわけで、かき氷を買うというのろに「ただの氷とシロップだよ!? もったいない!」とか、りんご飴を買う古瀬に「そんな食べにくいもの買うの?」とか。
お互いにケチをつけては笑い飛ばしながら、各々は好きなものをゲットしていった。
しかし、みんなが唯一本気で止めたのは虹呼だ。
彼女はビカビカと何色にも光輝くおもちゃが並んだ店で立ち止まり、どうしても買うと言って聞かなくなったのだ。
そんなの楽しめるのは祭りの間だけだよ!
ノリで買って後悔するものナンバーワン!
飾れるものでもないし、高いだけで本当に使い道がない!
全員で口々に説得を試みたが、虹呼はそれを押し切り、幼児にまじって品物を選びに行ってしまった。
あーあ、とみんなは落胆して、仕方がないので露店の切れ目によけて、虹呼が帰ってくるのを待つことにした。
「ニコのああいうとこ、ある意味憧れるわ」
「わかる」
のろと古瀬がしゃべり始めた後ろで、優芽と紬希も同感して苦笑しあった。
虹呼は全力でその時を楽しんでいる感じがする。
普段から自分のことをボクと呼んでみたり、奇をてらった動きをしてみたり。
演技っぽい彼女の本心はイマイチ掴みかねたが、あそこまで我が道を行けるというのは羨ましくもある。
「お待たせ~ぃ」
駆け戻ってきた虹呼は、なぜか光るおもちゃではなくて、キャラクターのお面をかぶっていた。
みんなの前で止まると、彼女はキメ台詞を叫んでポーズをとった。
「何それ?」
「なぬっ! 知らないのかい? 女子は全員必修でしょうが!」
キャラの名前も台詞も知らないが、そのお面が女児向け変身アニメの顔だということはわかる。
よりにもよってこのグラウンドで友達が魔法少女になりきっているのを見るなんて。
優芽と紬希は今度は本当の意味で苦笑した。
虹呼による台詞とポーズのレクチャーが始まるや否や、のろはサッと優芽たちの方に逃げてきた。
親だったら、こんなところで恥ずかしいからやめなさい、と問答無用でやめさせる類いの挙動なのだから当然である。
でも古瀬は、まるで五歳の妹の相手をするみたいに付き合った。
「古瀬って本当面倒見いいよね」
生け贄になってくれて助かった。
のろはそんなしめしめとした笑みを浮かべていた。
それがスッと引っ込んで、辺りを見回す。
「あれ、アキは?」
「ねぇねぇ、みんな。ちょっと来て!」
のろが尋ねたタイミングで、暗がりから彩生の呼び声が聞こえてきた。
何かと思って三人がそちらへ向かうと、手招きしていた彩生はフェンスの一点を指差した。
「あっ、セミの幼虫だ。初めて見た!」
フェンスを不器用によじ登っているのは、まだ羽化する前のセミだった。
「へえー! こんなふうに動くんだ!」
「ね。なんか目が真っ黒で可愛くない?」
「これから羽化するのかな?」
四人とも動くセミの幼虫を見るのは初めてで、それぞれが感心したように声を漏らした。
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