19-01 何々の夏
「あづーい」
優芽と紬希は逃げ込むようにしてバスに乗ると、でろ~っと溶けたようになって座席に身を任せた。
大して客のいないバス内はガンガンに冷却されており、まるで冷凍庫だ。
一方、道路には車がひしめき、その間ではめらめらと空気が揺れている。
見ているだけで汗が出てきそうだ。
どうもかけはしの日は天気に恵まれる。
昨夜の大雨はどこへやら、今朝には雲が切れ始め、空には久々の太陽が輝いていた。
しかし、いまだ梅雨を抜けきらぬ連日の空模様に嫌気がさしていたとはいえ、それを歓迎する気にはなれない。
こういう日は地面から水分が立ちのぼるのか、いつも以上にムシムシとして、不快指数が跳ね上がるのだ。
心なしか水槽のような臭いもするし、まるで海辺で潮風にベタベタにされている気分だ。
今日はこのままぐんぐん気温が上がって、真夏日になるらしい。
まだ午前だというのにすでに照りつけは厳しく、服を通り抜けて肌がジリジリ焼かれる感覚がある。
梅雨が明けたらさらに暑くなるというのに、今からこれではどうやって夏を乗り越えたらいいのだろう。
多分、すべての日本人がそんなことを思いながら過ごしている。
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今日のかけはしは、まず机の上に物品を広げるところから始まった。
紙コップや割り箸、それに洗濯のりやホウ
見慣れたものから何だかわからないものまで、いろんな物がずらりと並んだ。
「今から二人にはイベントで子どもたちに作ってもらう工作の練習をしてもらいます」
机を挟んだ向こう側から須藤が言った。
須藤はいつもと違って子どもたちと共に隣の部屋には行かず、わざわざ二人のそばに残ってくれた。
目の前に広げた物品について、説明をするためだ。
他の用事とかぶっていないことを確認し、二人は無事、前回頼まれたイベントのボランティアを引き受けた。
そのため、今日はその準備にあてることになったのだ。
イベントまではまだひと月もある。
だから、優芽は準備は来月でいいのではないかと提案した。
イベント当日とその少し前の二回、自分たちが足を運べば済む話だ。
しかし、その申し出はあえなく断られた。
優芽たちの都合がついても、かけはし側の都合がつかないのだそうだ。
これをきっかけにかけはしでのボランティアを月二回にしてもらえるよう頼もうと思っていた優芽は当てが外れた。
頼み事は少しずつという作戦の彼女は、五月に思いついた「須藤となるべく会えるようにボランティアの回数を増やす」というアイディアをまだ切り出さずにいたのだった。
でも、幸いにも今回断られたのはその提案ではない。
まだチャンスはある。
ならば、来月のイベント後に「二学期から」という節目を強調しつつ、今度こそきちんと提案してみよう。
彼女は次のタイミングを見据え、人知れずそんな決意をするのだった。
そうとなれば、今日はイベントへの準備に集中だ。
工作といえるのかはよくわからないが、かけはしのブースではスライム作りをやるらしい。
意外と理科っぽいコーナーに、つい気分が盛り上がった。
「参加する子どもたちには、割り箸で混ぜる作業をしてもらいます。材料はお料理番組みたいに、こちらであらかじめ計量して準備しておきます。二人とも何色のスライムにする?」
「ピンク!」
「あの……これって子どもから色を混ぜて別の色を作りたいって言われたら、やってもいいんですか?」
「それは無しにして。すごいこと言い出す子が出てくるから。分量も決められた量にしてね」
ただ作ることだけを考えていた優芽は、紬希の質問を聞いて一気にわくわくから引き戻された。
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