18-06 子どもには子どもの、大人には大人の
「スピーチコンテストに誘おうにも、マミさんは論外だし、ニコは頭良いのに絶対出ないって言うし! だからクラスでいい子いないかなって探すはめになったんでしょ!?」
ストレートにバカと言われて、優芽が「うへっ」と顔をしかめた。
そんなことには気づかず、なおも彩生は大真面目だ。
握っていた紬希の手を胸のあたりまで持ち上げて、嬉しそうなほほ笑みを浮かべた。
「そうやってクラスのみんなを見てるうちに一目置いたのが紬希だよ。授業で当てられても全然間違えないし、発音は丁寧だし。絶対友達になりたいって思った。だから、仲良くなるきっかけが降ってわいたときは運命だと思った!」
感情の高ぶりに合わせて紬希の手ごと万歳したのを、優芽と虹呼が引き剥がしにかかった。
そうやって離ればなれにされても、彩生は両方の親指を立ててご機嫌に何度も突きだし、まるで踊っているみたいだ。
「友達になれたし、入部してもらえたし、スピコンでは競い合う仲! 最高! 完璧! ……だから、べつに新入部員はいいんです。手は足りてるし。あんまり増えると部屋せまいし」
自己中心的な彩生に、周りは苦笑するしかなかった。
紬希もそのひとりだ。
でも胸の中では苦笑いなんてしていなかった。
自分は部の賑やかしのために無差別に引き入れられたのではない。
必要とされ、選んでもらえていたのだ。
彩生には、自分と親しくなりたい気持ちが、きちんとあった。
それがわかると、ひたすら後ろ向きだった紬希のモチベーションが、初めて少しだけ上向いた。
彩生の寄せてくれた好意に応えるためにも、スピーチコンテストに向けて、できるだけのことは頑張りたい。
そんな自分を、紬希はチョロいなと自嘲しつつ、悪い気はしないのだった。
「高遠さん、ちょっと待って。高遠さんにとってはそうかもしれないけど、日本語教室の生徒たちにとってはどうだろう?」
生徒たちが彩生の言動に流される中、今野はまだ部員の募集を諦めていなかった。
言われて、彩生は海外ルーツの生徒たちに目をやる。
語学部に入るまでの紬希が苦手意識を持っていたように、海外にルーツを持つ生徒と関わる機会のなかった日本人生徒の中には、彼女と同じような勘違いや意識を持っている人もいるのだろう。
そんな必要はないのだと一人でも多くの生徒がわかれば、ここに来ている生徒たちがクラスで苦労する頻度は減るのかもしれない。
特に、壁を自分で取り払っていけない海外ルーツの子にとっては、歩み寄ってくれる日本人生徒は多いに越したことはない。
語学部員が増えるというのは、海外ルーツの生徒にとって、頼れる人が増えるということだ。
「人手は足りてるけど、そこじゃないってことですね。それならわかりました! みんなに友達が増えるのは私も嬉しいです。全力でやさしい日本語の紹介、部員募集、見学のお知らせ、させていただきます!」
一転してやる気を出した彩生に、みんなから拍手が浴びせられた。
自分勝手なことを言っていたくせに、彼女の顔はまんざらでもなさそうだ。
「そのかわり、人数が増えたらもっと大きい部室くださいね!」
そうなると日本部員、特に彩生と紬希は忙しかった。
やさしい日本語の勉強、および集会でどのように紹介するかの案出し。
見学受け入れのための特別な日を設けることになったので、それの企画。
加えて、夏休みに近づくにつれ頻度が上がっていく、海外ルーツ生徒からのヘルプ対応。
そしてスピーチコンテストの練習。
急にやることが押し寄せてきて、一度にさばくのは無理だった。
そうした日々をこなすこと約一週間。
今野はニコニコと朗報を持ち込んだ。
彩生と紬希、二人のスピーチコンテストへの出場が決まったのだ。
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