18-05 子どもには子どもの、大人には大人の
自分の生きにくさも、モルモルも、かけはしも、語学部も、フミ子さんのことも。
何か共通した一本の糸が通っているのではないかと。
そんな気配を覚えるのだった。
「先生、じゃあさ、集会でやさしい日本語のこと紹介してもいいですか?」
「いいね! ついでに部員や見学の募集もしてみたら? 」
彩生の提案に、今野は軽い感じで返した。
しかし、それとは裏腹に、彼の中には様々な思いが満ち溢れている。
彩生の強い要望で始まった語学部だが、もちろん学校側の意図はそことは別にあった。
少子高齢化で日本人が減る一方、外国から入ってくる人々はどんどん増えている。
この先、海外にルーツを持つ人との関わりはより当たり前になっていくだろう。
そんな時代を引っ張っていけるような感覚を養ってほしい。
学校は、海外にルーツを持つ生徒とそうでない生徒が当たり前に関わり合う空間を作ることで、それの実現を試みていたのだった。
また、海外ルーツの生徒にもっと勉強やガス抜きの機会を与えるという目的もあった。
日本語教室を開かれた空間にすることで新たな交流を生み、彼、彼女らの苦労や達成感をそれ以外の生徒に伝えようという意図もあった。
だから、話し合いが今のような展開になったのは、上手く行きすぎなほどに望ましいことだった。
これもメンバーに恵まれたおかげだ。
今野はこの場に集まっている生徒を見回して、めぐり合わせに感謝した。
彩生は言うまでもなく、同じ時期に通訳ができる萌がいたのはラッキーだった。
優芽は人の役に立ちたい子だったし、
そして、紬希だ。
彼女はとにかく、よく考える。
今回の話し合いがここまで広がったのも、きっと彼女の視点があったからだろう。
この黄金の世代だけで、語学部を終わりにしてはならない。
時代の流れで、ゆくゆくは活動頻度が落ち、名前もボランティア部などに変わり、そのうち部活動ですらなくなる可能性もある。
それでもいいから、彩生たちがいる間にこの雰囲気を次の学年に繋いでいかなくては。
軽い感じに見える今野だったが、彼の腹にはそういうハッキリとした思いがあるのだった。
でも彼の提案に「えー」と不服そうな声をあげたのは、意外にも彩生だった。
「語学部は今の人数がちょうどいいんで、募集はべつにいいです」
語学部拡大に向けて突っ走っているように見えた彼女は、いとも簡単にブレーキを踏んだ。
彼女は私利私欲に良くも悪くも従順なのだ。
そんな彼女に驚いたのは今野だけではなかった。
「私を部に誘ってくれたときは熱烈だったアキちゃんが部員勧誘したくないなんて……」
「ちょっと! 私のこと人たらしみたいに言わないでよ。あれは紬希だから誘ったんだからね!」
両手をつかんでぶんぶん振ってくる彩生に、紬希は豆鉄砲を食らったみたいになった。
「え、日本部員がほしかっただけじゃないの?」
彩生は日本部員をひとりでも増やしたかった。
だから、部活に入っていない紬希がクラスで孤立したときに、しめしめと近づいてきたはずなのだ。
「確かに日本部員は増やしたかったけど、それはライバルがほしかったからで、誰でもいいってわけじゃなかったの!」
ライバル、という言葉が出て、途端に優芽と虹呼がニヤニヤし始めた。
「アキは相変わらずですなぁ~。青春といえばライバル! 切磋琢磨! 同じ目標に向かって走る仲間! って……逆にオバサンくさいのですぅ~」
「はーあ? そんなことないし!普通だし! オバサンなのは腰が重いニコでしょ!?」
声色を変えながらからかってくる虹呼に、彩生はむきになって言い返した。
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