18-03 子どもには子どもの、大人には大人の

「アキーニャ、性格悪~い」

「やだ~萌たん。そんなに褒められると照れる~」

 萌が彩生の首にガッと腕を回して肩を組み、二人はキャハハッと笑った。


「逆に、紬希はどう?」

「えっ!?」

 その様子をほほ笑みながら見ていた紬希は、まさか自分に声がかかるとは思ってもいなかった。

「語学部に入って一番日の浅い紬希から見て、ここの子たちへの印象ってどう?」

 一斉にみんなに注目され、紬希は縮みあがった。

 何か言わなければ、という気持ちばかりが空回りして、結局何も言葉が出てこない。

 視線を落としてフリーズした紬希に、助け船を出したのは萌だ。

「最初来たときは関わり方がわからないって言ってたよね。今は? どう?」

 紬希はぶるぶると首を振った。

「全然! 日本語も通じるし、ピアスもそういう文化なんだってわかったし。……なんか私、勝手にみんなのこと、言葉も考え方もまったく通じないみたいに思い込んじゃって……本当はそんなことないのに」


 実際に関わってみて、自分が勝手な決めつけをしていたことに、紬希はすぐ気づいた。

 それは、海外ルーツの子たちが日本に歩み寄る努力をしてくれていたお陰でもある。


 日本語教室に通い始めて、紬希は彼、彼女たちの色々な苦労や努力を目の当たりにした。

 本当だったら、日本生まれ日本家庭育ちのこちらが歩み寄る努力をすべきなのに。

 今ではそんな思いが芽生えていた。


「もし私と同じように勝手に苦手意識を持ってる生徒がいるなら、この集会でそんな必要ないんだって気づいてほしいな……」

 何人かの海外生徒が、健闘を称えるように紬希の肩を叩いた。


「教室でクラスメートとして会ってたらまた違ったかもね」

 紬希の言葉に彩生も何か思ったようだ。

 彼女はどこか空中に目をやって、考え込みながらそう言った。

「んー……かもね」

 もしクラスで出会っていたなら、同じ教室で過ごすうちに自然とどの程度の日本語がしゃべれるのかわかっただろう。

 ピアスもつけていなかったはずだ。


「でも、実際に日本語が得意じゃない子もいるよね?」

 そこに萌が素早く指摘した。

「スラスラ話ができないのって両方にとってストレスだし、しゃべれないならなおさら、何か理由でもなきゃ積極的に関わろうってならないと思う。そしたらこっちのキャラも伝わらないし、仲良くなるきっかけも難しいよね」

 海外生徒の何人かが頷いた。

 心当たりがあるのだろう。

「そうだね。いくら相手の国を知っても、言葉が通じないんじゃ最初から話しかけるの諦めちゃうよね……」

 彩生は過去の自分を悔やむように言った。

 萌の言葉に思い当たることがあるのは、海外生徒だけではないようだ。


 語学部員としてここの子たちと関わっていなかったら、きっと自分たちは今もなんにも知らず、無関心だったろう。

 関わりを持った今だからこそ、彩生だけでなく他の日本部員にも、過去の自分に対する不満や落胆のようなものがわいてくるのだった。


 萌の言葉はそうやってその場のひとりひとりに、それぞれ違った苦いものを思い起こさせた。


「そうだ。そういうときどうしたらいいか、先生なら知ってるかも? 今野先生~!」

「はいはいっ?」

 いつも日本部員が座っている席から声が返ってきた。

 話し合いを生徒に任せ、今野は今野で何か仕事をやっつけていたのだ。

 でも後ろ髪を引かれる様子もなく、彩生に呼ばれると彼はすぐに切りをつけて、生徒たちの方にやって来た。


「先生ってポルトガル語わからないのに、ここの指導することあるじゃないですか? あれって不安とかなかったんですか? それか、何か特別な接し方を知ってたんですか?」

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