18-02 子どもには子どもの、大人には大人の

 なるべく聞き手の生徒が参加できる形にしよう、ということは決まった。

 では、どんなふうにしたら参加してもらえるのか。

 テーマ決めと並行して、一同はその方法に頭をひねった。



「へえ~ブラジルってこんな感じなんだ」

 イメージのわかない彩生あきたちは、ベルナルドのスマホを借りて、現地にいたときの写真を眺めさせてもらっていた。

 観光地でも何でもなく、ただの日常の写真なのだが、背景に写る建物などは間違いなく日本の景観とは違う。

 写真のメインである、仲良さそうに肩を組んで笑っているベルナルドとその友達や家族の様子すら、彼女らには外国っぽく感じられた。


 集会では旅行ガイドをするわけではないのだから、世界遺産のような有名どころばかりを解説しても仕方がない。

 かといって、国を紹介するときの鉄板である国旗や面積といった基本情報や言葉、食事などをただ並べるだけでは聞き手側に親しみはわかないだろう。


 ブラジルを知ってもらうことは、あくまで足がかりだ。

 海外にルーツを持つ生徒とそうではない生徒との間にある精神的な壁を、少しでも取り払うことこそが、この交流会の目的なのだ。



「ブラジルのこと知らなすぎて、言われなかったらあたしたちにはどこの国かわからないね」

「思ったんだけど、日常とか、観光地とか、食べ物とか、いろんな写真を全部見せて、ここはどこの国でしょう? ブラジルです! ってやったらいいんじゃない? そこから話広げていこうよ!」

「ボクたちにとっては全部が目新しいもんね」

 彩生の意見に日本部員のみならず、海外ルーツの生徒も頷いた。

「さんせいです。わたしたちが日本に来たときもいろんなことめずらしかった」

 そうやって言葉で返してくれる子もいた。



 彼、彼女たちの大半は、日本語での日常会話はペラペラだ。

 もちろん彩生の言っていることもわかるし、自分から話しかけることもできる。

 では、なぜ日本語教室に通っているのか。

 それは授業についていくための日本語を勉強するためだ。

 友達とはしゃべれても、授業になるとわからない、漢字が読めない。

 一見問題なさそうでも、そういう見えにくい困難を抱えているため、彼、彼女たちは日本語教室の支援を必要としているのだ。



「よーし。じゃ、帰省中にはとにかくたくさん写真撮ってきて!」

 日本語に不慣れな生徒には萌が通訳して、全会一致で彩生の意見は通った。

 これでひとつ、取り組むべきことが決まった。


「あの、前にブラジルでは学校でお菓子を食べるって聞いたけど……そういう学校生活の違いなんかも取り上げたらどうかな? クイズにすれば聞き手にも参加してもらえるし……」

 紬希の意見に彩生は目を輝かせた。

「いいねそれ! ベルナルドに教えてもらおう。日本に来て一番日が浅いから、ホットなアイディアが聞けそう!」

 すぐに萌が通訳して伝えると、ベルナルドはひょいと片足を持ち上げてペシペシ叩いた。

「うわばき」

 彼がそう言うと、それだけで伝わる子もいたらしく、何人かが「あぁ」という声を漏らした。


 ブラジルは土足文化だから、ここへの入学が決まったとき、まず昇降口では靴を履き替えることを教わったそうだ。

 他にもブラジルでは登下校はスクールバスだったとか、授業は半日だったとか、髪型や色、メイクなども自由だったとか、聞けば聞くほど日本との違いは出てきた。

 掃除の時間もなかったらしい。


「よーし、丸ばつクイズにしよう。答えは全部丸にしよう。ひとつくらいはバツもあるだろって、絶対みんな引っ掛かるよね?」

 彩生の提案に笑い声があがった。

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