18-01 子どもには子どもの、大人には大人の
「何点だった!?」
授業中にも関わらず、教室は蜂の巣をつついたような騒ぎだ。
「はーい、他のクラスは普通に授業してるんだから静かにー」
テストを返却し終わった佐藤が教卓からそう促したが、それだけで生徒たちが静まるわけがない。
彼女は諦めて黒板に向かい、生徒たちの一喜一憂が過ぎ去った後の準備を始めた。
「すっご!」
「さすが紬希!」
優芽たちのグループも例に漏れず、みんなで集まって、ガヤガヤと点数の見せ合いをしていた。
今回は難しかったとか、勉強しなかったとか、みんないろいろ言うものの、グループ内での順位は大体いつも同じだ。
優芽とのろが目くそ鼻くその底辺なのは周知の事実で、二人とももはや自分の点数を隠そうともしない。
いっそ笑ってくれた方が慰められる、という態度だ。
グループ内の不動のトップは紬希で、彼女の綺麗な答案用紙はまるで正答表のようだった。
「どうやったら勉強ってできるの?」
周りは決まり文句のように紬希にそう聞いた。
そのたびに彼女は言葉を濁して笑うことしかできず、「やっぱ頭の良い人は違う」と周りは自己完結した。
紬希にしてみれば、授業を聞いて、出された宿題をやって、テスト勉強をしていたら、自然と点数はとれるものなのだ。
どうやったら、と聞かれても、普通にしてたら、としか答えようがない。
でもそんなことを言ったらバカにしているみたいで角が立つ。
みんな本当に紬希の勉強法を聞きたくてそう言ってくるわけではないのだから、笑ってやり過ごすのが一番なのだった。
しかし、みんな当たり前のように「さすが」と言うが、紬希は何の労力もなしに高成績を維持しているわけではなかった。
間違えた問題をきちんと理解するまでやり直したり、暗記科目を覚えられるまで反復して勉強したり。
彼女にとっての「普通」が水準の高いものだったからこそ、自然と他の人よりも勉強にあてる時間が長くなり、それが結果に繋がっているのだ。
ただ当の本人はそのことに気づいておらず、人それぞれ自然にできることって違うんだなあ、くらいにしか思っていなかった。
自分は勉強は意識しなくてもできるが、人との関わりでは「不快にさせちゃいけない」、「なるべく面白いことを言わなきゃいけない」と常に意識をしている。
でもみんなは無意識に円滑なコミュニケーションができるのだ。
自分は意識してやろうとしても出来ないのに。
そう思うと、紬希にはテストで点がとれることよりも、みんなのように人と気楽に関われることの方が遥かに羨ましいのだった。
「ま、期末も終わったし、あとは夏休みに向けて楽しいこと考えていこうぜ~!」
古瀬のそのひと声に、みんなテスト結果のことなんてコロッと忘れて、「おー!」と拳を突き上げた。
夏休みまで、もう一ヶ月を切っている。
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日本語教室では、日本部員と海外ルーツの生徒が同じ長机に集まって、総動員で意見を出しあっていた。
二学期になると一年間で唯一、この教室が主導で行なう行事がある。
国際交流会だ。
海外ルーツの生徒たちが、自分たちがルーツを持っている国、つまり今年度はブラジルについて全校生徒に紹介する集会だ。
こんな早くから話し合わなくても会には間に合うのだが、それでもあえて準備を始めるのには理由がある。
夏休みを利用してブラジルに行く海外ルーツ生徒は多い。
だから、その前にテーマなどを決めてしまって、現地で過ごす間にネタや写真など、発表のための素材を集めてしまおうという訳なのだ。
本やネットから引用するのもいいが、もっと日常や生徒たち視点に迫るのなら、手作りの部分は多い方がいい。
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