15-03 信頼という魔法
「介護を受けるためにはまず介護保険を申請しなきゃいけなくて、歳を取ったら誰でも使えるってわけじゃないの。かけはしみたいな施設を利用するために受給者証を申請するのと同じでね」
「えっ、そうなんですか!?」
「そうなの。この人にはこのくらいの介護が必要ですって認定してもらって、そしたら今度は介護の専門家にどんなサービスをどんなふうに利用するかの計画書を作ってもらうの。かけはしと同じで、ひとりひとりに合ったサポートをしていくんだよ」
介護は自立支援だ。
その人が自分でできることは自分でやってもらい、できない部分だけを介助する。
そうやって、今できていることを維持したり、できることを増やしたり、意欲を引き出したりするようなサポート。
それが介護なのだと須藤は説明した。
なんとなく、優芽は紬希のことをチラッと見た。
彼女も自分と同じように驚きの表情を浮かべている。
紬希でも知らないことがあるんだ、と優芽は少し意外なような、安心したような気持ちになった。
「専門家って本人だけじゃなくて、その家族へのサポートもするから、もし渡辺さんが介護を利用すれば困り事を相談したり、アドバイスをもらったりもできて良いんじゃないかな」
渡辺が介護の知識を得ることは、渡辺夫婦二人ともが安心し、安全な暮らしをすることに繋がる。
今のままではフミ子さんはまた行方不明になるかもしれないし、ならないにしても上がりかまちの段差など、生活にはいくつもの不安が潜んでいる。
実は上がりかまちに関しては、手すりを設置することで、転倒転落の危険を減らすことが可能だ。
設置方法も、工事をともなう取り付けタイプと工事不要の据え置きタイプがあり、シーンに合わせて選ぶことができる。
しかも、介護用の手すりの設置やレンタルは、介護保険の適用範囲だ。
費用を抑えつつ、実現させられる。
須藤がかい摘んでしてくれる説明に、二人は心から感心した。
「介護保険ってそんないろんなことができるんですね。知らなかった! あたし、施設でお世話のイメージしかありませんでした!」
「色々あるよ。かけはしみたいな通いの施設もあるし、短期間だけお泊まりする施設や、自宅を訪問して介護してくれるサービスなんかもある。ちょっとだけ助けてもらいたい方とか、自宅にずっと住んでいたい方とか、色々だからね」
だから、介護とは一方的なお世話をすることでも、されることでもない。
暮らし方や受けるサービスをその人自身が選択する、意思や希望が尊重されるものなのだ。
「でも、そんなサービスがあるのに、どうして渡辺さんは使わないんでしょうか。介護を使わないにしても、どうして知り合いの人にまで頼りたくないんでしょうか?」
紬希も優芽と同じように、施設でお世話というイメージを改めて、想像を一歩膨らませた。
フミ子さんが住み慣れた家で、これからも旦那さんと一緒に過ごしたいと思っているとしたら、安全安心のためにはどんなサポートが必要なのだろうか。
逆に、もしもフミ子さんが家よりも設備の整った施設に引っ越したいと希望したら、それは実現できることなのだろうか。
そもそも認知症のフミ子さんは意思を表示できるのだろうか。
疑問は尽きないが、それもまずは介護認定というスタート地点に立たなければ始まらない。
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