14-04 のろと紬希の当番日誌

「で、何をやらかしたんだい? 紬希が図書当番の失敗だけであんなに怒るわけないぞなもし」

 放課後になって優芽たちが紬希を取り囲んでいる間に、虹呼にこがこっそりのろの元にやって来た。

 紬希に聞いた方が原因は一発でわかるだろう。

 しかし、あまり自分を出さない紬希をこんなにもあからさまにさせたのは何なのか、紬希本人の口から聞き出すのは、怖すぎて誰もできなかった。


「わかんない……」

「わかんなくても何かあったんだにゃん。当番中に紬希にしたことをいっこずつ思い出すにゃんにゃん」

 のろは机にべたっと伏せて、うーんとうなった。


「あたしが何かすると迷惑になるって言ったら、そう言えば何でも許されるわけじゃないって怒られた」

「のろの口癖はいつものことだにゃ」

「じゃあ……図書当番の仕事を全然わかってなくて、全部教えてもらった」

「平常運行だにゃ」


 のろはまたうなった。

 思いつく自分のダメな行動はさっそく出尽くした。

「あとは普通に当番しながらしゃべってたくらいだよ」

「図書室ではお静かに、だにゃん」

 虹呼は人差し指を立てて、しぃーっとした。

「でも図書室でうるさくしたくらいで紬希は怒らないにょ。どんなことを話したにゃん?」

「どんなことって……最近見た動画で面白かったやつの話とか……」


 のろは自分のした何気ない話をすべて思い出していった。

 けれども、何か言うたびに違う、違うと虹呼にはねられた。

 そうしてようやくあの話題にたどり着いたのは、もう記憶を絞りきった後のことだ。


「田沼経由でマミさんに助けられたでしょって話とか……」

「それだ。それだよ、のろ」

 急に素の口調になった虹呼にのろはギョッとした。

 次いで背筋がサッと冷たくなった。

 自分は虹呼が真面目になるほどの、そんなにもひどいことを言ってしまったのだろうか?


「でも、あたしは嬉しくて……」

「嬉しいって言ったの?」

「……言ってない」

「言ってないことは伝わらないでしょ。なんでそんなことを言ったのか、どうしてのろは嬉しいのか。きちんと言わないと。今のままだとそれ、紬希からしたらイジメられたようなものだよ。誤解されてるよ」


 のろは大きくショックを受けた。

 紬希を傷つけようという意図はまったくなかった。

 むしろ、のろにとっては特別な仲の合言葉みたいなものだった。

 だから余計に、のろは紬希が傷ついているとは露も思わなかったのだ。




 虹呼にちょいちょいと手招きされ、いぶかりながら紬希はのろの元にやって来た。

 その後ろでは優芽たちが頼むぞと視線を送っている。

「えと……」

 伏せていた視線を恐る恐る上げて、紬希と目が合った瞬間に、のろは深々こうべを垂れた。

「ごめん……!」

 紬希からのリアクションはない。

「あの、ニコと話して、紬希が田沼経由でマミさんに助けられたっていう話をしたのは、ダメだったって……」

「えっ」

 紬希の口から小さく声が漏れた。

 のろが再び恐る恐る顔を上げてみると、紬希の表情は少しも和らいでいない。

「言いふらしたの……!?」

 紬希の声が明らかに怒気を含んでいる。

 恐れをなしたのろは、思わずまたうつむいて、ぶんぶんと首を振った。

「言いふらしたとかじゃなくて! てか、紬希をイヤな気持ちにさせようと思って言ったわけでもなくて……」


 焦れば焦るほど、何からどんな言葉にして伝えればいいのかわからなくなる。

 のろは気持ちばかり空回りして、要領を得ないことを尻切れに並べることしかできなかった。

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