14-03 のろと紬希の当番日誌

 バカな考えだという自覚はあった。

 優芽が自分のことを友達と思っていないだなんて、そんなのは優芽に対してとんでもなく失礼だ。

 彼女は決してそんな人間ではない。

 しかし、それでも悲しくなるのをやめられないのが久我紬希だ。

 彼女はどうしても、物事を自分にとって苦しい形にねじ曲げてしまう。


 そんな色眼鏡を易々と外してくれる優芽は、今かたわらにいない。

 紬希は自分で自分を虐げるのをやめられなかった。



 だが、その気持ちは一転する。

 ずぶずぶと悲しみの底まで沈んだそこにあったのは、怒りだった。


 友達という土台から蹴落とされ、見下された。

 本当の友達は自分なのだと、偽物がこれ以上輪に入ってくるなと、牽制された。

 そんな思い込みが紬希の中に一気に燃え広がった。




 事件に発展したのは、次の日のことだ。




「この前教えたからできるよね? 私は返却された本を棚に戻してくるから、ひとりでやってて」

 有無を言わせぬ物言いで、紬希はその場を離れた。

 担当をまた交代して、紬希とのろはこの日、カウンターを任されていた。


 あれから紬希は、のろのことがすっかり嫌になってしまった。

 でも怒りを爆発させることはできなかったし、のろが普段通り、あるいはそれ以上に接してくることに参っていた。


 教室では他の子たちがいるから自然と離れられるが、当番中はそうもいかない。

 我慢しなければとも思ったのだが、謝罪もないのに、昨日の今日で気持ちに収まりをつけるのは無理な話だった。


 だから、返却棚の本を持ち出しながら紬希はほっとした。

 この作業になるべく時間をかけよう。

 そう思った矢先のことだ。


「紬希、ちょっと来てくれない? 変になっちゃった……」

 ちょんちょんと肩をつつかれ振り向くと、情けない顔をしたのろが立っていた。

 カウンターに連れていかれ、パソコンを覗き込んでみると、そこには見たことのない画面が表示されている。

「えっ、どうしちゃったのこれ。何したの?」

「わかんない……」


 そう言って目を反らすのろに、本当は心当たりがあるのではないかと勘ぐったが、紬希は追及するのはやめにした。

 少しいじってみると、どうやらのろは蔵書の登録情報を書き換えてしまったらしかった。

 自分で何とかできないか試すか、素直に先生に相談するか迷っていると、のろが卑屈な笑いを浮かべて、お決まりのセリフを口走った。


「やっぱりあたしが何かすると迷惑かけちゃう」


 さすがの紬希もそれにはカチンときた。

「あのねぇ、そう言ってれば免罪符になるわけじゃないんだからね!?」

 莉恵菜と花音が何事かと本棚の間から顔を出した。

「メンザイフ? ……って、何?」

 しかし、眉間にシワを寄せてそう聞いてきたのろに紬希はがっくりした。

「許されないってこと!」

 理解したのか、していないのか。

 のろは不安そうな顔でじっと紬希を見つめるだけだった。



---



 のろと紬希が喧嘩をしている。

 みんなが確信するのにそう時間はかからなかった。


 昨日の昼過ぎからなんとなく違和感はあった。

 でもまさか紬希に限ってそんなことはないだろう、と楽観視していたのが、今日の昼過ぎになったらさらに悪化した。

 こっそり莉恵菜に当番中に何かあったのか聞くと、彼女からは「野路のみちさんがやらかした」と返ってきた。

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