14-02 のろと紬希の当番日誌

 あるいは、面倒だと思うことから逃げたいがための言い訳にすぎないのだろうか。

 だとしたら、紬希は言葉のままに受け取って一生懸命になってしまった自分が恥ずかしかったし、のろが「みんなが自分を迷惑に思っている」という捏造をばらまくことにムッとした。



 だから、紬希はのろに強制的に成功体験を積ませることにした。

 のろの後ろにまわって腕をとり、操り人形のように動かして、貸出返却業務を行うことにしたのだ。

 図書資料はバーコード管理になっているので、業務は本当に簡単だ。


 この子たち何ふざけてるんだろう?

 図書本をカウンターに持ってきた生徒たちからはそんな顔をされた。

 しかし、その甲斐あって、当番が終わる頃には「なぁんだ、めっちゃ簡単!」とのろに言わしめた。



 図書当番は一週間続く。

 紬希は次の日ものろと二人になる時間があった。

 この日は莉恵菜、花音と担当を交代して、紬希たちが本棚の整理だ。

 当たり前にのろは本の整理の仕方を知らないので、紬希が隣で手取り足取り教えることになった。


「めんどくさぁ。本なんて空いてるとこに入れとけば良くない?」

「それじゃ探したい本が見つからなくなっちゃうでしょ」

「本なんて読まなくていーよ。てか、こんな番号順になってるなんて、知ってる人いるの?」

「目の前にいるよ」


 のろは背表紙についているラベルを見下ろしながら、苦虫を噛み潰したような顔をした。

 いよいよ、やりたくないことから逃げるための言い訳説が濃厚になってきた。


 そんな何の脈絡もないところに、突如爆弾は投下された。

「ねえ、紬希って田沼経由でマミさんに助けられたでしょ」

 不意を突いた質問に紬希の体は硬直した。

 のろが何かしゃべりながらカウンター業務をしている二人を顎でしゃくったが、あまりの動揺に何も頭に入ってこない。


 雨がぱたたっと窓に打ち付けた。

 今日は少し、雨足が強い。



 優芽は、田沼に頼まれたことは他の子たちは知らないと言っていた。

 そもそもグループに誘ってくれたのは彩生あきだった。

 なのに、どうしてバレたのだろう。



 返す言葉が見つからず、ぎこちなくのろの顔を見やった。

 その表情がどこか勝ち誇っている気がして、紬希は奈落に突き落とされたような気持ちになった。

 それは、紬希と優芽は本当の友達ではないのだと嘲笑われている気がして。


 きっかけはどうあれ、優芽とはもう間違いなく友達だ。

 しかもモルモルというみんなの知らない秘密を共有する仲なんだぞ、と心の中で振りかざしてみたりもした。


 でも、そうではないのかもしれない。

 友達であるという証拠はいくらでも思い付く。

 でもそれは、そうやって紬希を満足させるために振る舞ってくれている、優芽の優しくて残酷な嘘なのではないか。

 優芽は田沼に言われたから自分と関わっているだけで、教室で一緒にいるのも、外に誘ってくれるのも、すべてがただのおもてなしなのではないか。


 だから、のろにバレたのだ。

 周りからしたらそれとわかるほど、優芽はただ田沼に与えられたタスクをこなしているようにしか見えなかったのだ。

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