第三章
14-01 のろと紬希の当番日誌
空が灰色に塗り込められ、しとしとと雨が降り続いている。
歩けばそこらじゅう水溜まりだらけで、うつむかなければ靴も靴下も水浸しだ。
太陽は隠されて所在がわからない。
朝も昼も同じようにどんよりと暗く、まとわりつくような空気が毛穴をふさぐみたいでなんとなく息苦しい。
校舎に入っても廊下が濡れていて、上履きの裏の汚れが溶けたのか、ところどころ黒くにじんでいるところがある。
やっぱりうつむいて、ひょいひょいとそれをかわしながら歩くのだが、ずるっと足が滑ったときなんかは心臓に悪い。
この梅雨の季節がやってきて、公園に集まるバイク集団は鳴りを潜めた。
グラウンドゴルフの練習も中止となり、優芽と紬希の魔法少女活動も、何度か行なったところで出番がなくなった。
あれから二人は渡辺夫婦を見ていない。
少なくとも変身してゴミ拾いをしている最中には、渡辺は夏目たちを頼りに来ていない。
ということは、フミ子さんはあれからは迷子になっていないということなのだろう。
それとも、周りを巻き込むのが嫌で、迷子になっても渡辺ひとりで何とかしているだけだろうか。
あの日以来、優芽と紬希は登下校でひとりになった時などに、ふと辺りを見回すことがあった。
フミ子さんはまた徘徊していないだろうか。
もし見つけたら、また家に帰してあげなければ。
二人がそうやってフミ子さんを気にかけていることを渡辺は知らない。
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図書室のカウンターでは、のろが両ひじをつき、手の甲を顎乗せ台にして、ぼーっとどこかを眺めていた。
天気が悪いからといって混み合うわけでもなく、本棚の前を行きかう生徒はまばらだ。
友達同士で来た生徒がいれば多少賑やかになるものの、基本的には上履きが床を擦る音だけが響く。
紙のにおいが満ち、どこか落ち着いた雰囲気を持つここは、学校の中では少し特別な空間だ。
四人に図書当番が回ってきたのだ。
本当は紬希とのろ二人でカウンター業務を分け合うところなのだが、のろは「やり方がわからない」と言って、頑として仕事をしようとしなかった。
最初の図書委員会で、当番のやり方については全員実践して身につけたはずなのだが、彼女はそれもすり抜けることに成功していたらしい。
紬希にはのろがなぜそんなことをするのか理解できなかった。
そもそもなんで彼女は図書委員に入ってしまったのだろう。
当番は必ず回ってくるのだし、やり方がわからなければ困るのは自分や周りだ。
しかも、わからないのなら教えてあげようとしても、のろはそれを拒否する。
自分が何かやるとかえって邪魔になる。
その呪いは他人には理解できないほど強く、のろに染み付いているらしかった。
紬希は語学部への入部を決心したときのことを思い出した。
不安だからといって何もしないでいるのは、変化を諦め、成功体験のチャンスまで放棄してしまっている。
人はチャレンジをして、失敗や成功から学ぶことで成長していけるはずだ。
できたという気持ちが、やる気を伸ばすはずだ。
なのに、のろは誰でも簡単にできることまで、できないと言ってやろうとしない。
まるで自分で自分をわざとおとしめようとしているみたいに。
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