13-01 特殊はいつでもお隣に

「情報を聞き出すの、すごく上手だったね!」

「変身してて気が大きくなってたんだと思う……」

 紬希は手をすり合わせながら恥ずかしそうに呟いた。

「学校サボりになっちゃった……大丈夫かな」

「学校より行方不明者の安否のほうが大事でしょ! あたしたちは他の人と違って、一刻も早く見つけてあげることができるんだから! ……多分」


 頼みの綱はヘッブだ。

 優芽たちには渡辺のお婆さんに引き寄せられているというヘッブは見えない。

 しかし、モルモルの道案内を信じて、とにかく言われるとおりに進み続けた。


「情報を聞き出してすぐに変身をやめたのはどういう理由だったの?」

「……渡辺さんに話しかけるときは、夏目さんたちに私たちとゴミ拾いした記憶があった方がスムーズだと思って。でも、その時に私たちが力になるって言っても、変身を解いたら渡辺さんはそのことを忘れちゃうでしょ? だから、私たちも探しているっていうのを覚えていてもらうには、あのタイミングで変身をやめるしかなかったの」


 優芽は、あの少しの間にそんなにもいろんなことを考えたのか、と感心した。

 でも紬希は憂鬱そうだ。

「あんな目の前で変身を解いて、不都合なことにならないといいんだけど……」



 そんなことを話しながら、モルモルに言われるがまま足を動かすこと十数分。

 二人は公園にたどり着いた。

 見知らぬ小学校に隣接しており、遊具に子どもの姿はまだない。

 しかし、ベンチに目をやると、そこには景色と同化するようにして、何者かの後ろ姿があった。


「あの人かな?」

 その人はぼうっと小学校の校庭を眺めていた。

 灰色と白の混じりあった髪をがさっと引っ詰め、この季節に似つかわしくないくたびれたダウンジャケットを着ている。

 回り込みながらさらにその人を観察すると、二人はその異様さに、驚きを通り越して不安を覚えた。

 ダウンの下には花柄のパジャマ、そして足元は裸足に突っ掛け。

 どう見てもその人の服装はちぐはぐだったのだ。

 しかし、体つきや年齢などの特徴は、先ほど渡辺から聞き出したものと合致するように思える。


「あのぅ、おはようございます。渡辺フミ子さんですか?」

 優芽が恐る恐る声をかけると、その老いた女性はぼんやりと二人を見やった。

 何も反応がない。

 二人がどうしたらいいのかわからずオロオロすると、やっと老婆はゆっくりと頷いた。

 優芽は少しほっとして切り出した。


「旦那さんがフミ子さんのことを探していましたよ。旦那さんのところに行きましょう」

 相変わらずフミ子さんはぼうっとしていた。

 こちらの言うことを理解しているのか、そもそも耳にきちんと届いているのかすら定かではない。

 人間に芯のようなものがあったとしたら、それが抜けてしまったかのような、つかみどころのない状態に二人は不気味な気持ちになった。


 すると、フミ子さんはおもむろに体を前傾し始めた。

 膝に額が着くほど頭が下がって、このまま前のめりに倒れるんじゃないかと二人がビックリして見ていると、フミ子さんのお尻が自然と浮いて、そこからは動きが縦方向に変わった。

 フミ子さんはゆっくりと立ち上がっただけだった。

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