12-07 ヘッブの役立て方
「探している本人に使わせれば良い」
難色を示した二人に、モルモルは事も無げに言い放った。
しかし、紬希が即座に却下した。
「それは無理。ヘッブのことを一から説明するわけにはいかないし、ヘッブを知らない本人に無断で使わせるのも危険すぎる」
なにせ、ヘッブは使い方を誤ると生命を断つほどの危険物質なのだ。
「それならば優芽か紬希が媒介になれば良い。まず探し人を見つけることをイメージし、ヘッブを捜索に特化させる。その上でワタナベに探し人の発見を願わせれば危険はないはずだ。ヘッブを使う途中で、もしワタナベが他の思考を挟んでも、それには反応しない。ただし効果は希釈される」
説明がややこしくなり、みるみる優芽の表情が険しくなった。
彼女には難しすぎるのだ。
紬希にだってこの説明は難しい。
だが、それでも頑張って、彼女はやらなければならない行程を理解した。
「わかった。私がやってみる。特化はどうにかなりそうだけど……渡辺さんに願わせるっていうのは、どうやったらいいの?」
モルモルの言ったことを理解できていない優芽が媒介となるのは無理だ。
ならば紬希がやるしかない。
「ワタナベの注意を紬希に向けさせた上で、確実に探し人のことを想起させる必要がある。身体的な接触とアイコンタクトを併用するのが効果的だろう」
「それがもし上手くいかなくても、渡辺さんにリスクはないんだね?」
「紬希がヘッブをきちんと捜索に特化させられれば危険はない。きちんと特化したかはムーが見るから安心してほしい。成功すれば、恐らくヘッブは探し人に磁石のように引かれるだろう。ムーが行方を見るから、紬希たちはムーの言う通りに追いかければ、探し人に出会えるはずだ」
紬希は少し考えてから、「わかった」と言って、両手を差し出した。
「ヘッブのイメージがわかないから、優芽ちゃんが私の両手に触れたときに受け渡されることにしてくれる? そしたら、特化できるように念じてみるから」
「良いアイディアだ」
モルモルに促されて優芽が両手を重ねると、紬希は眉間に力を込めて「渡辺のお婆さんを探す……渡辺のお婆さんを探す……」と何回も唱えた。
「話は聞きました!」
いきなり妙な格好の女の子が夏目との間に入ってきて、渡辺はいぶかしい表情を浮かべた。
「なんだね、お姉ちゃんらは?」
「渡辺さん、この子たちは僕らよりも早く来て、公園のゴミ拾いをしてくれてたんだよ」
「ほお……」
と言いながらも、渡辺はうさんくさそうな目をやめなかった。
「はじめまして! 久我と言います」
紬希はグローブをさっと外して、右手を差し出した。
まだ渡辺は警戒していたが、握手には応じてくれた。
その手をすかさず左手で包んで、紬希は急いで用件を切り出した。
「奥さんを探しているんですよね?」
「あぁ……今朝から見当たらなくて……」
「私たちもお手伝いしますよ! 外見の特徴や名前を聞いてもいいですか?」
まっすぐな眼差しで善意をごり押ししてくる少女に、思わず渡辺は洗いざらい答えてしまっていた。
「ありがとうございます! きっと見つかりますから、渡辺さんも諦めないでくださいね!」
聞くだけ聞いて身をひるがえした紬希は、その瞬間に魔法少女から制服姿に戻っていた。
目配せされて優芽も変身を解き、紬希と一緒に走り出した。
「私たち、奥さんのこと探しますからね!」
念を押すように振り返りながら紬希が叫ぶと、夏目の声が飛んできた。
「おーい、お姉ちゃんたち。学校は!?」
「優芽、紬希、ヘッブが行ってしまう」
二人はもう振り返らず、モルモルの言う方向に全力で駆けていった。
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