12-06 ヘッブの役立て方

「優芽ちゃん! 良かった。話しかけてくるお爺さんがいて、なんか気まずくて……」

「あ、夏目さんだ。あの人、話すの好きなんだよね~」

 やっぱりか、と紬希は苦笑した。

 優芽は自分から夏目というお爺さんに近づいていって声をかけた。

 一緒になってゴミを拾い始めると、夏目は紬希にしたのと同じ質問を優芽にもしていった。

 優芽に隠れるようにして外のゴミ拾いを始めた紬希に、優芽はこっそり「いつも同じ質問」と耳打ちした。


「ところでお宅らは、ゴミ拾いのクラブかなんかなの?」

 今までの質問は、これを聞くための前置きだったのかもしれない。

 夏目は顔を上げて、改めて二人の服装に目をやった。

「まあ、そんなところです」

 優芽は難なく受け流し、夏目はそれで納得した様子だった。



 やがてぽつりぽつりと人が増え、お年寄りたちはグラウンドゴルフの設営と公園の美化の二手に分かれて、作業を進めた。

 和気あいあいとおしゃべりしながらの作業は、二人と美化班との間にゆるい連帯感を生んでいった。


 優芽ひとりでやるより作業の進みが早いとはいえ、取りかかった時間が遅かったせいで、終わる頃にはもう登校までの余裕はあまりなかった。

 ゴミは優芽の言っていたとおり高齢者たちが引き取ってくれたので、あとは早いところ服を制服に戻して、学校に急がなくてはならない。

 通学リュックをぶら下げ、とりあえずご老人たちの視界から出て元の姿に戻ろう、と話していたその時。

 男の人の大きな声が飛んできた。


「おう、夏目さんよぉ、うちのばーさん見てない? 朝から家にいなくてよぉ。まったく困っちゃったよ。いつ出てっちゃったんだか」

「渡辺さん! いやぁ、見てないねえ」

 渡辺と呼ばれたお爺さんは周りの人々にも同じことを尋ねたが、みんな心当たりがないと首を振った。


 ただならぬ空気に、優芽と紬希は思わず足を止めた。

「寝間着のまんま、飯も食わずに行っちゃったんじゃないかと思うんだよ。いや、困ったなあ」

「警察に届け出た方がいいんじゃないかい? 今日は夏日になるっていうし、熱中症も心配だよ」

「いやぁ、そんな大事おおごとにするのもなぁ……困ったなあ」

 すでに大事だと思うのだが、渡辺はどうしても身内で解決したいらしい。


「なんか大変なことになってる……なんとかしてあげたいけど……探そうにも顔も知らない人だしなぁ」

 デパ地下で迷子の親を探すのとはわけが違う。

 何の見当もつかないままやみくもに走り回るのは、ただのジョギングと同じだ。

「……なんとかできるかも」

「えっ?」


 ほとんど独り言のつもりだった優芽の言葉に、紬希が確信めいて答えた。

「ヘッブを使ったらもしかして見つけられるんじゃない? ほら、モルモルが言ってたよね。次のドナーを見つけるときは、ドナーになれる人に行き当たるまでヘッブの力でさまようって。それって、ドナーになれる人とそうでない人をなんらかの方法で識別してるってことじゃない?」


 少し間を置いて、優芽の背後からモルモルの声だけが返ってきた。

「識別というのは語弊がある。行き当たって、自動的に接続されたら、そのヒトはドナーだ。接続できるヒトのことをドナーと呼ぶ。だが、紬希の推測は半分正しい。探したい対象の手がかりがあれば、ヘッブの力で捜索できることもある」

 優芽と紬希は顔を見合わせた。


「その、手がかりっていうのは?」

「警察犬が物理的な証拠をもとに捜索を行なうとしたら、ヘッブは精神的なものをもとにそのヒトを探す。すなわち、ヘッブを使うヒトの持っている、探したい対象に関する情報を使う。成功率は情報の多さに比例して高くなる」


 喜んだのも束の間、二人は顔を曇らせた。

 それでは渡辺のお婆さんのことを何も知らない二人には無理ではないか。

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