10-05 委員会活動

 彼女たちもとりあえず二人で組んでみたものの、このままでは大変だと思っていたらしい。

 ホッとした表情で「うん、やろう」と即答した。


「三人は本読む? 何か候補ある? あたしは読まないからない!」

 みんなで輪になれるところに椅子を引きずってくると、のろはぽんぽんとしゃべり始めた。

 三人は顔を見合わせた。

「文字がいっぱい並んでるの見ただけでイヤになる! 動画ならオススメあるけど」


 不意に、カツカツとチョークの滑る音が飛んできて、四人は反射的に黒板を見た。

 オススメの本と書かれ、次いでその横に本のタイトルが二つ書かれていく。

「この二冊はもう決まりました! まだオススメの本を決めていないグループは、これ以外で決めてください!」

 教師の声が響いた。

 本が決まって、制作のための紙やペンを教室前方に取りに来ている生徒たちは、どこか得意気だ。


「うわっ、誰でも知ってるやつだ。考えてるとどんどんやりやすいやつとられそー……」

 莉恵菜がぼやいている間にも、隣のグループから代表が急いで走っていって、また黒板によく知るタイトルが並んだ。

 少し前に映画化されたやつだ。

 原作は読んでないけど映画は見たからいける、そんな笑い声が隣のグループから聞こえてきた。

 早く決めなければ、と教室のざわめきが一段と大きくなった。


「なんかないの?」

 他人事のようにのろが再度聞いた。

 その態度に花音はムッとしたようだ。

野路のみちさんも考えてよ。映画化したのを観たとか、動画でオススメされてたとか、ないの?」

「ん~思いつかない」

 本当に考えたのかという即答ぶりに、紬希はさらに険悪なムードにならないかとヒヤヒヤした。

 ただでさえ紬希と二人とは微妙な関係なのだ。

 のろのざっくばらんな態度がなんとなくそれを忘れさせてくれていたが、穏やかでない気配に、再び気まずさが首をもたげた。



 この芳しくない状況に、紬希はのろが言っていたことを身をもって理解し始めてしまっている気がした。

 何かやるとまわりに迷惑をかける。

 彼女が気ままにしゃべった言葉を作業への発言と捉えるなら、今の状況が作り出されてしまったのはその結果と言うこともできる。



 これ以上こじれる前にどうにかしなくては、と紬希は慌てた。

「のろちゃん、図書室で借りた本って何だった? オリエンテーションで一冊は借りたことあるでしょ?」

 苦しまぎれに絞りだしたのがそれだ。

 のろは眉をひそめて、首を傾けた。

 そうしてしばらく記憶をたどった後、あっと目を見開いた。

「あったわ、そんなことも! マンガ借りた! 読んでないけど!」

 明るく言い放った彼女に思わず三人は苦笑した。

 でも紬希は糸口を見つけたと思った。

「それだ! 図書室にはマンガもあるよっていうのをアピールしたらいいんじゃない? 図書室に来る人を増やすのが目的なんだし」

「たしかに」

「いいね!」

 すぐに花音と莉恵菜の同意も得られて、紬希は嬉しくなった。


 紬希たちはさっそく図書室にあるマンガ本を取りに行って、先生からの了承を得た。

 黒板にタイトルが書かれると、それがマンガだと気づいた生徒から、「その手があったかー!」と悔しがる声があがった。



 のろはグループの役に立った。

 これは彼女の世界を引っくり返す足がかりにできる。



「のろちゃんのお陰でオススメ本が決まったね!」

 何かやるといつも迷惑をかけるだなんて、そんなことはないんだ、と。

 そんな気持ちを込めて紬希は言った。

 しかし、返ってきたのは思いどおりの言葉ではなかった。

「いや、紬希の案っしょ? さすが頭イイ!」

 紬希はショックを受けた。

 のろの頭の中ではそういうふうに変換されるのだ。


 どうして?

 これじゃ自分で自分を生きづらくしてる!

 悲痛に思って、紬希は心の中で叫んだ。


 でもショックに浸っている暇はない。

 莉恵菜が制作に必要なものを取ってきて、作業は変わらず続けられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る