10-04 委員会活動

 でも思い返してみれば、魔法少女やモルモルについて知ることになったあの日。

 優芽が田沼に呼び出されて道連れを決めることになったとき、真っ先に手を上げて辞退したのはのろだった。


「ま、マミさんもあたしと一緒でバカだから、頭使うことはかわってもらえないんだけどね~」

 のろはおかしそうに笑って、やっと体を起こした。

「紬希は頭良さそうだし、なんでもできそう! 図書委員のときだけでいいからさ、助けてよ!」

 全然恥ずかしがる素振りも見せず、のろは軽い感じで言った。

「いや、頭良くないけど……べつにいいんだけど……まずは自分でやってみたらいいんじゃない? それでダメだったら――」

「ダメだよ。あたしが何かやるといつもまわりに迷惑かけるもん。仕事増やすくらいなら何もしないのが一番みんなのためでしょ?」


 なおも、のろは清々しい。

 謙遜でも卑下でもなく、心からこれが事実で、これが最善だと信じているのだ。


「でも、やる前から諦めるのは……もしかしたら出来るかもしれないし、最初は無理でも段々と出来るようになるかも。まずはやってみないと。初めから何でも出来る人なんていないよ?」

 優しく言ったつもりだったが、のろは渋い顔をして、また机にべったりとしてしまった。

「紬希、先生みたい。これだから頭良い人はさ~」

 そう口をとがらせながら言ってから、ニヤッとした。

 本気で不機嫌になったわけではないようだ。

 それがわかって紬希は安堵した。



 やってみる前から出来ないと決めつけているのろを見ていて、紬希はピンときた。

 これはのろの色眼鏡なのかもしれない。

 かけていることに自分ではなかなか気づけず、気づいたところで外すことが難しい、自分自身のフィルター。

 それを通して見たこと感じたことは、それが実際と違っていても、本人にとってはまぎれもない「現実」だ。

 正論や客観的な事実で正そうとしたところで、本人は受け入れることが出来ない。

 紬希にはそのことが身に染みてわかった。


 優芽ならこんな時どうするだろうか。


 紬希は、知らぬ間にそんなことを考えている自分に気づき、ハッとした。

 優芽は「正そう」と思ったわけでもなしに、いつも紬希のことを現実へと引き上げてくれた。


 自分も、優芽みたくなれるだろうか?


 そんなことは思い浮かべることすらはばかられる。

 でも、それを頭から締め出さず、紬希はこわごわ抱いてみた。



 気持ちがぶわっと高ぶったその瞬間、ちょうどチャイムが鳴って、号令がかかった。

 着席しても、まだ胸は高鳴っている。

 まるで世界の秘密を見つけたみたいな衝撃と興奮が、気を抜くと体の外に飛び出てしまいそうだった。


「今日は皆さんにオススメ本のポップを作ってもらいます! 個人でも、グループでも構いません。たくさんの人が図書室に足を運んでくれるようなものを作ってくださいね」

 活動内容に続き、教師が作り方についての説明をしている最中、のろが紬希の袖をくいっとつまんだ。

 紬希は声を出さずに頷いた。

 これで紬希とのろは同じグループだ。


「紹介する本は早い者勝ちですよ。では、始めてください」

 教師がパンと手を打ち合わせると、途端に教室はにぎやかになった。

 同じクラスの子と声をかけあう中には、さっそく私語や悲鳴が聞こえる。



 オススメ本の紹介という課題はなかなか難しい。

 普段からまったく本を読まない生徒は言わずもがな、よく読む生徒にとってはその中からひとつを選ぶのが難しいからだ。


 さて、困ったな、と紬希は思った。

 のろと二人で作業をするのは、実質ひとりでやるのと変わらない。

 でも誘うあてもないし……と諦めかけたそのとき。

「ねーねー、一緒にやろうよ!」

 のろは近くに座っていた二人の肩をたたいた。

 花音と莉恵菜だ。

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