10-02 委員会活動

「じゃあ今日の放課後……見学してみようかな」

「ありがとうっ!」

 大喜びする彩生を見ながら、紬希は複雑な心境だった。

 彩生は紬希と親しくなりたかったわけでも、純粋にひとりでいるのを心配してくれたわけでもなく、ただ部員の獲得を狙っていただけだったのだ。


 そんなのは当たり前のことだ、と紬希は胸の中で呟いた。

 自分自身に価値なんてない。

 何かに利用するのでもなければ、誰も手を差し伸べてくれるはずがない。

 それに自分だって、その利用価値を手放さないために、おとなしく彩生の希望に沿おうとしている。

 利害関係の一致というやつだ。


 だが、そう言い聞かせながらも、紬希の胸はどうしようもなく痛むのだった。



---



 実のところ、紬希は今日、学校を休んでしまいたかった。

 この日のこの時間が近づくにつれ不安と緊張に支配され、それに引っ張られて体調まで崩れて、心身ともにつらかった。


 でも頑張った。

 今は優芽たちがいる。

 それに逃げたところでこの問題には繰り返し直面する。

 この委員会の時間には。



 紬希はひたすら気まずく、どうしていいのかわからなかった。

 ひとりでのろのろと図書室にやって来て、廊下から中を覗き込むと、すでにほとんどの椅子が埋まっていた。

 委員会のときの席順は特に決まっていない。

 だが、同じ学年、クラスで大体固まって座るのが暗黙の了解だ。

 その中に、紬希はもはや懐かしいとさえ感じる顔を見つけた。


 委員会決めをしたのは四月。

 一緒に図書委員になったのは、その時に同じグループだった、花音かの莉恵菜りえなだった。

 紬希が学校を休んでいる間に他のグループに入り、ひとりになってしまった紬希に声をかけることもしなかった、あの二人だ。


 薄情者、とは思わなかった。

 むしろ二人をかばうような気持ちがあった。

 二人が他のグループに入ったのは、紬希がよく欠席していたせいだ。

 新しいグループに馴染むのに必死なときに、そうせざるを得なくしたそもそもの原因である紬希に気をつかう余裕なんて、あるはずがない。

 それに、紬希も仲間に入りたいのなら声をかければいいとわかっていたのにそうしなかった。


 これは自分のダメなところによる結果であり、自分の選択であり、自分の責任なのだ。

 だから、紬希は自分には二人を責める資格はないと思っていたし、むしろ「大丈夫だよ。私は二人を恨んでいないよ」と二人が罪悪感を抱かないよう釈明したい気持ちだった。


 取るに足らない存在である自分が、誰かに不快な感情を抱かせてしまうなんて、そんなの恐れ多い。

 せめてゼロでいたい。

 誰かに害を与えるのならば、自分は存在するだけで邪魔な、マイナスの人間だ。



 ボロボロなメンタルでまともな思考ができるはずもない。

 不必要に自分で自分を傷つけて、紬希はどん底のさらに奥へと落ちていった。

 しかし、だからといって委員会の時間はなくなってはくれない。

 どうしたらいいのかわからないまま、紬希は致し方なく図書室に足を踏み入れた。


 不運にも、ぽつんと空いているのは二人の横の椅子だけだ。

 図書室の椅子は簡単な丸椅子で、持ち運んで別のところに座ることもできるのだが、紬希には他の学年に混じる勇気なんてない。

 それに委員会が始まればどのみちクラス単位の作業で一緒にならざるをえないだろう。

 観念して、紬希は磁石の反発に抗うみたいに進み、その椅子に座った。

 そして二人と目が合い、気まずい空気が流れた。

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