07-07 ドリームランド

 ドナドナーの自分が優芽に何かを提供できるというのなら、それは夢や希望ではなくて、彼女が不利益を被らないための情報だろう。

 しかし、紬希はモルモルと違って、いつも優芽のそばにいるわけではない。



 紬希の心は揺れた。

 優芽を守るために柄にもない役を買って出るか、怖じ気づいて見捨てるか。


 どちらを選んでも精神的な負担からは逃れられない。

 やったことに後悔するか、やらなかったことに後悔するかだ。



 でも、優芽ちゃんなら、あるいは……


 連れ出してくれるかもしれない。

 自分だけでは気づけなかった、後悔のない世界へ。



「あの、優芽ちゃん、お節介だとは思うんだけど……」

 悩みに悩んで、紬希は自分が危惧していることについて優芽に話した。

「だから、本当に出しゃばりすぎだと思うんだけど、もし優芽ちゃんが不安なら、なるべく私もそばにいて、一緒にモルモルの話を聞けば、助けになれるかなって……」


 話しているそばから紬希はもう後悔し始めていた。

 理由をつけて、優芽に自分と一緒にいてほしいと頼み込んでいるみたいだ。

 白い目で見られていたらどうしよう、とこのまま一生顔を上げられない気持ちになった、が。


「えっ、そのつもりだったけど?」

「えっ!?」

「えっ?」 


 優芽の言葉に、紬希はガバッと顔を上げた。


「通訳するって言ってくれたときに、やったーって。えっ、ごめん、あたし勝手に思い込んじゃった!? なんか常に紬希が隣にいて、モルモルが難しいこと言い始めたらいつでも頼れる気でいた!」

 からからと笑い始めた優芽に、紬希は恥も後悔も吹き飛んだ。


「正直、リスクのことはよくわかんない。だから不安とかはないんだけど、モルモルの言うことがよくわからないのは申し訳ないなーって思ってるし、あたし、先代みたいに、ドナー以外にもモルモルの役に立ちたいんだよね」

「易しい説明の仕方を覚える……」

「そう、それ!」

 優芽ははしゃぐように身を乗り出した。

「ねえ、どうしたらモルモルのその願い、叶えられると思う?」


 優芽の目がきらきらと輝いている。

 紬希なら答えをくれる。

 そんな期待の目だ。


「そうだな……私がモルモルの言ったことをわかりやすい言葉にして、それをモルモルが暗記するっていうのもありだけど……そもそも、モルモルはもっと柔らかい話し方をした方がいいんだと思う。例えば、小さい子と話す機会なんかがあったら、早く身につくんじゃないかな」


 期待に応えたくて、紬希はつい変な提案までしてしまった。

 モルモルが直接小さい子としゃべれるはずがない。

 慌てて、もちろんそんなわけにはいかないけど、と付け足した。


 優芽は大きく頷いた。

 だよね、変なこと言っちゃった。

 苦笑とともにそう言いかけたのを、またも優芽は吹き飛ばした。


「できるかも」

「へっ!?」

「紬希! ちょっと週末、付き合ってくれない? 」



 後悔ばかりの世界から、驚きに満ちた世界へ。

 彼女は、いとも簡単に世界をひっくり返す。

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