07-02 ドリームランド
「屁じゃん」
「否定はしない」
「あのさ、屁にブって……」
「ヘッブという名前は先代が考えたものだ」
目の前で交わされる二人のやり取りに、思わず優芽は吹き出した。
紬希は水を得た魚のようにしゃべり続けていた。
今は、ヘッブについてもう一歩踏み込んだことを聞いているところだ。
思いついたことを片っ端から質問していく紬希に、優芽はただただ感服した。
自分にはマネできない芸当だ。
それと同時に、モルモル相手なら物怖じせず、しかも立て板に水でしゃべる紬希に驚いていた。
自分やグループのみんな相手でも、もっと距離が縮まったらこんなふうになるのだろうか。
そう考えると、優芽は面白いような落ち着かないような気持ちになった。
「ヘッブとは食後に生成される気体のようなものだ」
「ゲップじゃん」
「否定はしない」
「名前も似てる」
「この名前は先代が考えたものだ」
再びの身も蓋もないやり取りに、またも優芽は吹き出した。
「再三になるが、ヒトとムーたちの種族では身体の作りが違う。ヒトの言葉に置き換えたらそういう表現も間違いとは言えないというだけで、物体としてはまったく別のものだ」
自尊心のためなのか、ヘッブに汚ないイメージがつくと、優芽に心理的な抵抗が生まれると思ったからなのか、モルモルは重ねてヒトと自分たちとの違いを強調した。
顔がぬいぐるみなうえ、声にも抑揚がないから、真意はわからない。
「ところで、その先代っていうのは何なの?」
おちょくるような問答に突然ピリオドが打たれ、新しい疑問に話題は移った。
吹き出しつつ、優芽も気になっていたワードだ。
「先代のドナーだ。この星に来たばかりの頃、ムーは右も左もわからなかった。代々のドナーには、いろいろなことを教えてもらったし、アドバイスももらった」
「優芽ちゃんは何人目?」
「覚えていない」
紬希の顔が曇った。
「そんなにたくさんの人を食い潰して……」
「ネガティブに受け取らないでほしい。たしかにムーと共生しなければもっと長く生きただろうドナーもいたが、関係はどのドナーとも良好だった」
それでも紬希はうさんくさそうな視線を投げただけだった。
「ね、ね、先代はどんな人たちだったの?」
代わって、キラッキラの表情の優芽が質問した。
未知なことについての説明は難しくて気が進まなかったが、思い出話になら興味が持てた。
「いいヒトたちだった。自分たちがドナーとしての役目をまっとうした後もムーが困らないよう、たくさんの知恵を貸してくれた」
「へえ……!」
優芽は俄然、先代たちに親近感がわいた。
世間には自分のように、他人の役に立ちたい人間が意外といるのかもしれない。
同時に、憧れのようなものも感じた。
自分はモルモルに求められたことにしか意識が及ばなかったが、先代たちはそれ以上のものをモルモルに与えたのだ。
自分も先代たちのようになれるだろうか。
そんな期待を込めて、優芽はモルモルに尋ねた。
「例えば、どんな?」
「そうだな、例えば、この頭だ」
モルモルは両手でぽんぽんとシロクマの頭に触れた。
角を含めなければ二頭身の地球外生命体は、幼児みたいに頭でっかちで腕が太く短い。
毛むくじゃらの手はシロクマの耳の下までしか届かなかった。
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