07-01 ドリームランド

 学校の近くには公園がある。

 敷地のほとんどがグラウンドになっていて、遊びやスポーツのため、老若男女が利用している。


 しかし、優芽は知っていた。

 昼間は市民の憩いの場であるその公園も、夜になるとたびたび、素行の悪い若者たちのたまり場になっていることを。

 やつらは日が落ちるとどこからともなく、色とりどりのランプをピカピカさせたバイクに乗ってきて、歓声と爆音をあげながらグラウンドを縦横無尽に走り回る。

 またある日は、公園部分に建っている東屋にたむろして、大音量で音楽を流しながら、飲んだり歌ったり喫煙したりのバカ騒ぎをする。


 近隣の住民の通報でパトカーが駆けつけることもあるのだが、解散させても頃合いを見計らって戻ってきてはまた騒ぎ出すので、結局はいたちごっこだ。

 むしろ、警官からみんなで逃げるというイベントは、不逞の輩の満足感と仲間との絆を強化してしまう。 

 楽しげに逃げていく様子が、そのことを語っていた。


 それだけでも迷惑千万だが、朝が来てから明瞭になる被害もひどい。

 東屋を中心に、公園のいたるところにゴミというゴミが捨てられているのだ。

 食べ物の袋に、空き缶、吸い殻。

 バイクを乗り回しながら、わざとグラウンドやフェンスにゴミを投げつけていく日もある。


 彼、彼女らは道徳をあざ笑うことに喜びを覚えているのだろう。

 ポイ捨て禁止、と言われたから、ゴミを好き勝手にばらまく。

 他人に迷惑をかけてはいけません、と言われたから、わざと不快にさせるようなことをする。

 とても表面的で、稚拙だ。

 頭にあるのはそこまでで、その先にある被害については、もちろん想像すらしていない。


 ゴミの片付けが大変不快で骨が折れるのは言うまでもない。

 危険なのは、公園にやってきた子どもやペットが、ケガや誤飲をしてしまう可能性があることだ。

 バイク集団に「他人にケガを負わせてやる」という意図はないだろう。

 だが、彼、彼女らのやっていることは、そういうことなのだ。


 夜間に騒いでいる音が聞こえれば、近隣の住民にはそれとわかる。

 だから、次の日になると、手隙の高齢者が善意で公園を掃除した。


 優芽が特に気にしたのは、バカ騒ぎの次の日が、高齢者のグラウンドゴルフの練習日であるときだった。

 グラウンドの予約枠は午前に二つあって、ゴルフの練習はその二枠の時間帯の中で行われていた。

 今の季節ならば開始は八時頃だ。

 でも参加者たちが集まり出すのはいつもそれより早い。

 実はみんな、練習前の雑談を一番の楽しみにしているのだ。


 しかし、公園が荒らされた後だと、そうもいかない。

 もちろん雑談もしながらではあるのだが、時間までにゴミを拾わなくてはならないからだ。


 優芽はそれが嫌だった。

 誰かから頼まれなくても、何とかしたいといつも気にかけていた。


 だが公園は通学路の脇にある。

 学校では「マミさん」でとおっている優芽だったが、制服姿で、しかも登校の時間帯にゴミ拾いをするのは、練習に来た高齢者たちや同じ学校の生徒たちに自分をアピールしているみたいではばかられた。


 優芽はただ人の役に立ちたいだけだった。

 善人として覚えられたいわけでも、褒められたいわけでもなかった。


 そこに現れたのがモルモルだ。


 彼女は自分だとバレずにゴミ拾いする術を手に入れた。

 見た目については不本意だったが。



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