義妹による義兄を想う幕間


 お兄ちゃんには好きな人がいる。


 どうやらお兄ちゃんは、その想いを伝える事を諦めたらしい。

 それは伝えちゃいけない想いだからって。


 じゃあ何?

 あたしのお兄ちゃんを想うこの気持ちを伝える事もしちゃイケない事なの?


 ……ヤダよそんなの。


 あたしは伝えたい。

 そして出来るなら受け入れて欲しい。


 例えその視線の先にあたしが映っていなくても。


 あたし、知ってるの。

 お兄ちゃんはスマホの待ち受けに、黒い髪の美人との写真を設定してる事を。


 そう、それは大学に入る前のお姉ちゃん。


 お兄ちゃんはね、ずっと前からお姉ちゃんが好きなの。


 一緒に暮らすようになって気付いたんだけどね。

 お兄ちゃん、お姉ちゃんと話す時凄く幸せそうでさ……

 誰よりもお兄ちゃんの事を見てたから分かっちゃったんだ。


 たぶん、家族であたししか気付いてない。


 お姉ちゃん、自分に向けられる好意にだけは鈍感でさ、両想いなのにそれに全然気付いてないの。


 あたしはずるい女の子だから、それをずっと黙ってた。


 ──そして、利用した。


 お姉ちゃんはあたしに、お兄ちゃんの体を奪われたって言ったでしょ?


 最初にお兄ちゃんの心を奪ったのはお姉ちゃんなんだよ。


 だからあたしはお兄ちゃんの体をお姉ちゃんよりも先に貰った。


 そうでもしないと、お兄ちゃんはあたしを本当に妹としか見てなかったから。


 今までいっぱいアピールしたんだよ?


 ……全然意味無かったけど。


 ソファに座るお兄ちゃんの肩にそっともたれ掛かったり、ちょこっと手を当ててみたり。

 そうそう、事故を装って風呂上がりのお兄ちゃんに下着姿を見せてみたりもしたなぁ。

 ん、あれ……冷静になってみるとどういう状況だそれ。ま、まぁいいや。


 とにかく、お兄ちゃんはそれらを全て「なにやってんのお前」の一言で片付けてくれた。


 マジ激おこ。


 だけどね、それは仕方ない事だったんだ。

 お兄ちゃんの心には、もう既にお姉ちゃんが居たから。

 

 一体何があってそんなに好きになったのか……


 聞きたいけど、知りたくない。


 お兄ちゃんにはいつでもあたしの事を考えて欲しいから……


 デートさ、正直な所自信無いんだ。

 だって、お兄ちゃんはずっと前からお姉ちゃんの事が好きで、そんな相手と二人暮らししてるんだよ。


 ……勝ち目なんてどう考えても無いでしょ。


 はっきり言って、なんでまだお兄ちゃんとお姉ちゃんが恋人になってないのか疑問なくらい。


 でもそのおかげであたしにはまだチャンスがある!

 

 ……長々とあたしの想いを語っちゃったね。


 要するにさ、あたしはお兄ちゃんが大好きなの!


 あたしの趣味を否定しなかったし、何よりあたしを外の世界へ連れ出してくれた!

 おかげでね、高校に入って友達も出来たんだ。


 実はその子もあたしと同じ趣味持っててさ。

 中学の頃のお多感な時期の悩みを共有出来た、かけ替えのない友達なの!


 今は学校に行くのが楽しい。

 そんな風に思えるようになったのも全部お兄ちゃんのおかげ。

 

 さてと、そろそろデートの準備を始めないとね。

 一週間後に備えて色々計画を練らないと!

 沢山オシャレして、いっぱいお話するの!


 そして謝るの。


 最後に恋人になれたら万々歳。


 勝率は低いよ。だけど諦めない!


 よしっ。気合いも入った!

 それじゃ最後にこう締め括るよ!


 さぁ──あたし達の戦争デートを始めましょう。


 ……これ、一度言ってみたかったんだぁ。へへん。

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