第43話 巫女の銘

轟音が耳を覆う。

全ての感覚を遮断してしまうほど、それは大きかった。

手の感覚も視覚も嗅覚も、完全に消え失せた。

ただ聞こえてくるのは超音波のような、どうとも表現できないような音。


そしてもう一つ理解できたのは、自身がどこかへと真っ逆に落ちているということ。

感覚すらも感じないのに、なぜかどこっかへ落ちているという、空虚な何かだけが渦巻いていた。


「…………っ!!」


だが突如として、自らの現状が雪崩のように頭に流れ込み、それに押されるかのように目を開いたのだ。


目先には先ほどの神殿の残骸、そしてそれと同じ速度で落ちる“星の具現化のような少女”。

まるで彗星のように落ち方すら芸術的で、翻る髪は太陽のプロミネンスのようだ。


「正直、君とは出会いてくなかった。目の前にいることすら不快に感じるよ」


少女は口を開き、開口一口目に俺に対する暴言を言い放った。


「だけど……君を見てると、”アキタカ“の顔が頭の中に浮かぶよ……すばしっこい狐だったけれど」


聞いたこともない人名を彼女は言い放つ。

だがこの名前を聞いた途端、身体が一瞬だけ疼いたような感覚が走る。


「まぁいいさ……アキタカのガキなら、最大限甚振ってやる」


少女はその宣告をした途端、先ほどと同じように謎の球体を創り出した。

球体ではあったものの、それは出現した瞬間から、すでに彗星のような煌びやかさを帯びていた。


赤・黄緑・エメラルドグリーン……等々、まるで米国製のお菓子のようであった。


「避けないと……死ぬよ、皮膚を通じて身体全身が、細胞丸ごと焼き殺されてね」


少女は生々しい忠告をした途端、色とりどりの球体をこちらへと射出したのである。

その光景は一瞬しか垣間見えなかったが、まさに”オールトの彗星“であった。


「カエっ……」


自身の生命いのちが”死“に晒されているというのに、手に抱き抱えた彼女のことを口に出す。


言葉を紡ごうとした途端、またもや鼓膜に張り詰める轟音が鳴り響く。

身体には焼きこがれるかのような感覚は走らなかったが、目の前が光によって完全に眩んでしまった。


“ダメだ……コレ、次が来る……!!”


姿勢を変え、鳥の急降下のような状態になる。

ミサイルのように、駆速おちる

風を切る音が先程とは、比べモノにならないほど、異常な大きさで聞こえる。

髪が暴風に打たれたかのように、ありえない速さで翻る。

肌が氷塊を纏ったかのように、身が震えるほど冷たくなる。


「ほい、もう一打」


耳に吹雪のように冷たい言葉が、電光のように走る。

過ぎる速度は、石火のようであった。


視線を左右の方向へとむける。

まるで、横断歩道を渡る時のように。

右には白い光の球体、左には青色の球体が、自身の落下速度と全く同じ速度で、ソラから堕ちていたのだった。


“ま……た、やばいのが来る!”


ジリジリと電子が捩れるような音が、耳に中に入ってくる。


「どう堕ちるのかな……君は? 小鳥かな、隕石かな……それとも彗星かな?」


電子音が極限まで達した。

耳の中が割れるような音、聴覚がガラスのように割れるような、説明不可能な感覚。

指先が烈火で炙られた、飴のように解ける感覚。


「ぐ……あっ!!」


肺が焼けるように熱い。

まるで大嵐の稲妻に打たれたかのように、電気のような痛みだ。

出る声すらも痺れ、苦痛の具現化のようなモノだった。


「……掠ったか、普通なら灰になって、彼方へと消えるはずだが……」


まるで研究者のような口調で語ると、小さく「フフっ……」っと不敵に、微笑むような声が聞こえた。

その微笑み声は、まさに悪魔の微笑みの、ソレであったのだ。


「これは……良い。久々の感覚だ……やっぱり、"アキタカ"みたいだ」


氷水で冷やした、鉄のように冷たい声が響く。

残酷的としか表現できない、声へと変化していた。


落下速度も一段と速くなり、今までの冷たさが肌を一段と冷たくする。

生命がすり減る感覚が走る、死の足音が遠くから聞こえる。


「……やぁ、カンザキ」


耳を摩るような、全身が凍結するような言葉が走る。


だが意思と反し、身体は言うことを聞かず、声の主の方を見てしまった。

視界の端には、既に気持ち悪いくらい嫌悪する、プロミネンスのように靡く髪が見えた。


「オマエ……っ」


恐怖を打ち壊し、目の前の状況に目を向けた。

そして睨むかのように、彼女の顔を見た。

相変わらず、巫女のように綺麗な容貌。

この世の宝石など、有象無象に格落ちしてしまうほど、美しかったのだ。


俺にとってはその美しさは……ただの憎悪を加速させるだけの、補助剤に変わり無かった。


「オマエはなんだ? 何が目的なんだ?」


何も考えずに言葉を放つ、それの方が良かったと思った。

……と言うのも、言葉の後に考えたモノだ。


「……バカなのかお前は? 敵に腹の中を明かす輩はどこにもおらんだろう」


「なら、お前は誰なんだ?」


目の前の絶対的強者に、余裕のある口ぶりで話す。

普通ならば喉が凍結したように、喋れなくなるところだ。

俺は完全に、生物としておかしくなっていた。


「さぁ? 誰だろうな、”異界の支配者“の使徒かもしれんし、ただの魔術師かもしれないな」


少女は若干の微笑みを見せる。

無意識で目が潤うほど美しく、憎たらしいほど美しかった。

最早、この場面で懐中からハンドガンを取り出し、額をブチ抜いてやりたいほど。


「……その雰囲気で、魔術師とは言えないだろ」


「ああそうだなぁ、それなら正体は、一つにしか縛られないだろう」


「異界の支配者……の、使徒?」


「知らんだろうな、知ったらお前の精神が、真っさら吹っ飛んでしまうだろうし」


少女は嘲笑うかのように、声調を人に苛立ちを出させるような、強弱で話を進める。

魅了するかのような、はたまた相対している敵を、見下しているかのようであった。


「……お前の目的はなんだ?」


彼女の先ほどの台詞には深く触れなかった。

いくら嘲笑うような口調をしてるとはいえ、あの言葉だけは、決して触れてはいけないと……表現できない感覚で理解した。


「目的か? 目的なんど……いうわけないだろう。

私が誰の差し者かは教えてやるが……腹の内まで明かすほど、相手を信用できる器は持ち合わせてない。

ただ一つ教えてやるのは……私はここで、君を殺さなければならないのだ……この命一つを、無象に落としてもね……」


第43話終



Evil, and justice, differ from generation to generation.

In the Warring States period, killing the enemy for the sake of the general was considered justice.

In today's world, doing so is just an act of murder and must be tried for the crime.



We see our enemies as evil and we see ourselves as righteous.

In other words, this story is probably an ...... imposition of justice between rebels ... .

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