第37話 公転銀河

第37話 公転銀河


今まで見て何よりも、不可思議で幻想めいて、空想のようであった。

ソレはずっと空で回転していた。

何かを待ち望むかのように、それか何かからの指示を待つように。

ただ自然的にソレでも地球上では、不自然すぎるモノなのには変わりない。


その銀河の中には、白く光る粒子のようなものがあった。

青色の渦、黄色のような色をした渦、それは全て月よりも白い中心にある核とも言える、丸の形をした渦の収束帯から出ていた。

まるでビッグバンや、スーパーノヴァとしか、形容できないものであった。


最も、目の前にあるモノが、人類にとって到底受け入れられるような、モノではないのはあからさまに明確であった。

怖いくらいに不自然で非現実的で、そして目が離せないくらいに、神々しく神秘的であった。

ソレは……明らかに、空間を切り落とし、そこに配置しているようにしか見えなかった。

最初からそこにあったかのように、永続的にずっとずっと回っている。

この銀河は自身が不自然な異物というのは、理解していないように客観的に見えた。


そうは見えなくとも、おかしいのは絶対に変わらない。


すると、この場に来て一言程度しか言葉を発していない、アスーガルドが口を開いたのである。


「これが僕の姉だよ、まぁ、今は“異界あっち”にいるけどさ。今目の前にあるこの銀河は言うなれば、異界への門というやつかな?」


己の視点を、黒髪の魔術師へと変える。

突拍子もなく槍を突き刺すかのように唐突に、数え切れないほどの、処理し切れないほどの、情報量が俺の内部に送られてくる。

俺は一瞬の混乱に状態に入り、目を回すかのように泳がせたのである。

脳内には“どういうことだ?”という言葉だけが、止まることなく量産され、ずっと渦巻いていたのである。

俺の声帯は麻痺を起こしたかのように全く動かず、アスーガルドに対する疑問が口から出なかったのである。

まるで……あの銀河に、喉を抑えられてるみたいだ。


そう考えると、視点があの銀河へと向かう。

先ほどより心なしか少しだけ、それが放つ光の量が増したような気がする。

生きているかのように、脈を打つかのように、渦をかき乱している。

相も変わらずこちらを傍観するかのように、ずっとあの銀河は回る。

変わらず憎たらしいくらいに美しく、畏怖するくらいに気分が悪くなる。

その逆光に、目が焦がされそうになる。


俺は突如として何を思ったのか、その光に手を伸ばす。

まるで過去の怨讐を持ち、それに体を刈られた復讐鬼のように。


「消え……」


そう言いかけた途端。

自身が必死に伸ばしている手に、青と水色が混雑し合う淡い光が出てくる。

その光は空間を歪めるかのように、波を起こしユラユラと揺らめいていた。

俺は瞳孔を無理やり広げ、その淡い青と水色の光を、握り潰すかのように掴み込んだのである。

青い光は手の僅かしかない隙間から、止まることなく溢れていたのである。


それから数秒経った瞬間だろうか、手中から逃げるように隙間から漏れ出した青い光は、何かのシルエットへと形を変えたのである。

と、言ってもそれは突如とした変化ではなく、折り紙を折るかのようにゆっくりと、変化を進ませていたのであった。

青光するシルエットはみるみると、ボルトアクションライフルの形へと、その身を変貌させていくのである。

俺は不意に口の端である、口角をクイっと曲げるように上げる。

ソレは何かに対する殺意か、それから派生した殺害道具を見つけたような、無邪気とは言い難い邪道の笑みであった。


「欲しい《くれ》……」


作られていく物に対する物欲からか、口から言葉が漏れ出たのである。

その物体は止まることなく生成されていき、ほぼ六割が完成されようとしていた。

次の七割も目と鼻の先、もしくは指先にすら等しき、非常に短い距離しかなかったのである。

生成が進むごとに、その物に対する物欲は格段に上がり、ソレに並行して殺害衝動も上がっていく。

生成物に手を伸ばし、その銃身の片鱗を無理やり、酷いくらいの情悪を持って掴もうとした。

PALE《青白》と変わりない青い光は、そんな俺をずっと、照らしていたのである。


”が、その悪感情は、一本の空間の一部かのような、赤光の矢によって貫かれるのである。”


「いえ……い、あ……えあ?」


常人の言葉にすら至ることのない、怪物バケモノのような言葉を喉から掻き出す。

酷いというのならば言えばいい、気持ち悪いと言われるのなら、ソレは当然、否定材料もくまなく探しても産出することなどない。

本当に自分を見失いそうなほどに、化け物へと成り果てようとしている。


そして時が満ちた途端、青色の光から作られていった、ボルトアクションライフルはこの世界にその全身を現した。

黒を纏い、暗闇の部屋の隅よりも黒く、スコープは天上に浮かぶ銀河の光を、その鏡の如き丸いガラスで弾いていた。

それが重力に従い地に堕ちようとした途端、俺はその銃を手で受け止める。

同時に全ての銃火器についている、安全機構セーフティーを易々と外す。

その銃を受け止めた途端、天上に浮かぶ銀河に対する殺意は、今まで以上に跳ね上がったのである。

ここまでくると自身が何をしようとしているのかが、全くわからなくなってきた。

そもそも、銀河に対して狙撃銃を向け、ソレで射抜くという……。

なんともおかしな話である、ペットボトルで巨大隕石を砕くというくらい、馬鹿馬鹿し過ぎる話である。


だがどうでも良かった、そんな考えを持つことすらも、正気を保っていない自身からするとどうでも良かった。

そう考えていたのだから、このトリガーを引くのも躊躇もなかった。

だが……そう考えていたとしても、引こうとしようが、それを妨害してしまう外的要因があれば、“引いたところで”という話に、転換を喫してしまう。


その時、目を丸くした。

引き金を引いても、銃声が全く聞こえなかった。

疑問を浮かべ、原因究明へと身を乗り出した、だがそれはすぐ理解することとなる。

安全機構セーフティーが外していたのにも関わらず、なぜか強制的に起動されていた。

一つの疑問を解消し、“なぜ起動したのか”という新たな疑問を抱きながら、もう一度外そうと試みる。

だが……もう一つ問題が発生したのである。

その問題というのが、安全機構セーフティーが外せないということであった。

銃火器など初歩的なことも、ろくに知ることができていない俺は、何度も意味もなく動かないモノを無理やり起動させようとする。

それを繰り返そうが、音が少しもなることなど全くなく、ただ動かせないという現実が酷いくらいに、突きつけられるだけだったのである。


「動け、動け……動けよォ!! 何でだよ! 何で、何で動かないんだよ!」


暴虐無人にライフルが壊れる程の、力を躊躇いなく振るう。

ただ一人で苛立って、ただ一人で怒号をあげ続ける。

専門家が見るだけであるのならば、奇声を喉の奥から上げ、少し絶句を示すくらいの、頭のおかしい異常者である。

周りの視線を気にする羞恥心に対する余裕など、もうすでに失ってしまっている。


ただこの時、苛立ちを起こし冷静を失って考え続けていたのは、“あの宙に浮く憎たらしい銀河を狙撃銃で撃ち抜きたい。“

それが功を成そうが、功を成さないかなど、塵ほどどうでもいい。

この思考を心理術とかで覗かれてしまっては、ただの狂人という印象を、垣間見た者に植え付けるだけだ。


「おい、もうやめにしろ、そんな事をしたところで、自身を見失っていくだけだぞ」


無理やり安全機構を開示しようとする手に、己の力を越すほどの力がかけられる。

目の前に現れたのは、機械の弓を使う、冷静沈着の魔術師であった。

それをかけられているのを垣間見て理解しても、ただ力を振るい安全機構を外そうとする。

ソレをしている間にも力が込められた腕を、無理やり抑えようとする力がけけられる。

外そうとする手にも、今まで以上の力を込め掛けられる力に対抗しながら、安全機構を外す力を分割する。

非常に難しいことではあるものの、理性というタガが外れたものには、冷静だった時に考えうる常識など通用することはない。


その拮抗状態を数分間、安全機構に触れながら、その場で小さく巻き起こした。

表現上や表面上であれば、この光景はどちらとも同じ状態であるだろうが、理性を失った方が少しずつ力を失っていく。


そうして、俺の異常な行動を止めようとした力に、俺は完全に押し負けてしまった。

だがこれで諦めるまいと、俺は安全機構から一旦手を離し、この力を完全に排除するために異界幻像を使用し騎士の剣を作り出す。

銀世界の如き剣を手にした途端、俺は目の前の人物に対して、力任せに剣を縦に振り上げ……一瞬で、下方に振るったのである、

だが所詮、ただ力任せに振るった剣は、相手の技量には到底敵うことがない。

突如として身の顔面が掴まれ、ゴツゴツとした固い、灰燼の地面に叩きつけられる。

全身の力が完全に抜けると同期し、一瞬全身が躍起したような感覚が走る。

叩きつけられようが痛みなど感じる余裕など忘れ、再び立ちあがろうと脚と腕に力を入れる。


立てると狂信なほどに、考えていた。

しばし、罠にかかった狐狸のように暴れることを、意志的に自制する。

狂信なほどに信じていたものの、その結果が俺に成功の報いを持つことはなかった。

冷静さを失った状態で、自身の腕と脚を睨みつけるかのように、確認した。


「…………っクソ」


脚と腕には白色に発光する、ピアノ糸のようなものが絡まっていた。

それを外そうと先ほどと同じように、一心不乱に出せるだけの力を込める。

それ以降は普通に動かすが、その白いピアノ糸のようなものが、豆腐を切るかの如く簡単に外れることはなかった。

逆にそのピアノ糸の方が上を行き、俺の腕にめり込んできたのである。

当然のことであるが、その蝕むような痛みには危機を抱いたため、すぐに力を込めるのをやめ、別の解決方法を模索した。


「そら、少しはこうやって……頭を冷やしとけ」


額をボールを掴むかのように、強い力によって抑えらる。

剛力によって地面へと頭をつけられているため、

頭を上げることができず、抵抗できない自身を恨むことしかできずにあった。

すると、瞬時に額に耐え難い、説明不能な感覚が走った。


「っツ……アァァァァァーーーー!?」


天地が入れ替わったかのようだ。

体全身に落雷が落下したかのような、感覚が何度も巡る。

体が痙攣し平衡感覚すらも、大砲が直撃した城壁のように崩壊していった。

それが観測不可能なくらい短い時間、続いていった。

だが終わる時には、朦朧と霞がかった視界を映す意識は、俺の中へと消えていったのである。


暗い空間の中で意識が目覚めた。

別に視界に何かが見えているわけでもなく、ただ黒い空間を認識しているだけである。

瞼の裏にある、黒い空間を。

………?


すると暗い空間の中、だれかが触れてくる感覚が、認識することができた。

“だが、これを知らないものと言えない。”

相変わらず特徴的な柔らかさ、そしてもう一つは記憶に焼きつくほど特徴的なくらい温かい。

特徴的な柔らかさには、モチモチとしたものも含まれる。

その感覚は腕をつたり自身の、二の腕の方まで到達した。

俺はそのもどかしさに我慢できず、自身で閉じていた目を開く。

壊れかけたシャッターを開くかの如く、非常にゆっくりと開く。

その開き方はいつものように、両目を同時に開けるのではなく、片目ずつ開いたのである。


「あ……カエデさん……」


「んー? 起きた?  ちょっと寝てたけど……君が暴れていたのは、少しびっくりしたよ?」


眼前には白髪の美少女が空に浮く銀河を、バックにコチラを見ていたのである。

赤い両目でずっと、こちらを見てくる。

宝石のようであり彼女の目の中には、自身の反射した姿が見えていた。

歪んだ形をしてまるで”██の█“に、睨まれているようであった。


彼女を見ていると途端に彼女が、小さく口を開いたのである。


「大丈夫、立てる?」


彼女は俺の後頭部に白い手を掛け、まるで子供を起こすように、倒れ伏した俺の体を起こしたのである。

体を起こされると、視界には相変わらずの灰だらけの文明の跡が広がっており、特筆するものにすら至っていなかった。


「ちょっと待って……コレ……まさか、なんでまだそこには行くはずが……」


唐突に、アスーガルドが空に浮く銀河を見て、何かに勘付いたかのような声をあげる。

その声に印象というイメージをつけるのならば、“焦っているようだった”の一強であった。

第二は驚愕、第三は恐怖であった。

その三感情を巡らせるような声が、自身の耳に響いたのである。


咄嗟に俺は空に浮く銀河へと目を向け、何が起きているのか調べようとした。

だが、そんないとまはこんな戦場のような場所には、授けられることはなかった。

突如として銀河が宿していた光が、あり得ないくらいの光度へと増す。

群青のような光は青白くなり、中心核のような白い光は、瞬きを起こす一瞬の隙に地上に向けて一本の螺旋を描いた。

その突如と変化した銀河を見ていると、ほぼ真横で声が聞こえたのである。


「待って、みんな逃げ────」


瞬時にして、声が聞こえなくなった。

その次の途端、螺旋から白い光がこちらに、波となり向かってきたのである。

それは風よりも音よりも速く、俺の目の前まで這い寄ってきたのだった。


逃げることはできないと、考えるよりもは何倍も速く理解し判断した。

俺は最後の力を使い後ろにいた彼女を、体の全身を使い防人へとなった。


第37話 終

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