第30話 反逆宮殿

そうやっていつも考えたことが、そして思い描き続けたことを言われた。

世界へ反逆する気はないか。

彼女から言われた言葉だった、初めて告白された時も、告白の意味を込めて似ていた言葉を言われた気がする。


とはいえそれを告白というのは、いささか物騒すぎるというものなのだが。

物騒すぎるとは言っても、あの状況でそんな言葉は出ることはないんだが。


「世界への……反逆」


そんなことを考えていると、自然的に世界への反逆という台詞が漏れた。

勿論のことだが意識から出てきたわけではなく、無意識下から勝手にだ。

もしも無意識下が介入しなければ、確実に言っていないと保証できる。


視界をその人物に向けると、なぜか一段階だけ顔が明るくなっている気がする。

最初から明るかったのだが、俺の言葉のせいでその明るさが増した。

その印象を何かに表すとするならば、一言で言うのであれば、天真爛漫な子供のようだった。


邪気のない色、純粋のようにも見える。

純粋とは言っても、全く色がないというわけではない。

確立された自我いろを持ちつつも、子供だった時に見た純粋さ。

それがこちらにも、伝わってくるようだった。


そもそも自身が天真爛漫な子供ようだ、なんて気づいているかどうかなど、本人ではないから全くわからない。

まぁ本人は分かっていても、修正するようなことはしないだろうけど。

その必要すら、全くないんだけど。


と、話がずれてしまった。

今の話は少しの嗜み程度のものにするべきだったが、かなりの時間を無駄に浪費してしまった。

まあもう一度言うが、この男性は特に目立つところもなく、印象に残るような部分はない。

それでも開口一言目の、ある言葉によって、まるで木材に釘を打つかのように、印象が強く残ったのである。


その言葉をもう一度言う必要性など、空間を弄ってもどこにも見当たるわけない。

短く感じる間を経ると、黒髪の男性から声をかけられる。


「そうだ! 君たちが! 世界への反逆を望んでいるか聞いているんだ!!」


一言一言がまるで小さな衝撃波のように、一々大きな声で話してくる上に、一々切ってくるのも何かと大袈裟に話す人物という印象を、滝水のようにこちらへと与えてくる。

正直な話をすると、めちゃくちゃうるさいとしか言えない。


「少し声がデカいぞ? 久々に、地上の人間に会ったからといって、あまりはしゃぐなよ」


「え、ああ! すまない……」


異国の魔術師が俺が時間を浪費して考えていたことを、短くそしてものすごく簡潔に相手に説明してくれた。

それを言われた時、男性の声はそよ風のように静かになった。

その速さは超電導リニアが過ぎ去るかのように、一瞬の出来事だったのである。


「あ、あの……世界への反逆って……」


突如としてそのような言葉を、グラスから水をこぼしたかのように、出すはずのないような言葉を漏らしてしまった。

漏らした言葉は、糸を手繰り寄せるかのように、難しくも確実に撤回できるようなものではないのである。


そうやって言った言葉には、誰かが反応してくるのは当然である。


「そのまんまだけど!」


またもや黒髪の男性が、俺に対して返答をしてきたのである。

ものすごく単純でその上、水の雫が落ちるように、数秒ほどの短い言葉だったのである。

そして極め付けに注意されたにも関わらず、出会った時と変わらない大きな声だった。

にしても……さっきよりも声が大きい気がする、衝撃波から落雷のような感じに。


と、ここまで返答に間違いがないように見せているが、正直な回答を言うと……。

全て間違っている。

原因はただの俺の言葉足らずなのだが。


「あの、そうじゃなくて……なんで世界への反逆をしようとしているんですか?」


そうやって自身の間違いを訂正し、足りなかった言葉をテープで貼り付けるかのように、溢れそうな焦燥感の中でよく考えながら、適切な言葉を選び修正を行なった。

もしもここでミスをすれば、相手を不快な気分にさせると思ったからである。


「そりゃあ! 私たち魔術王こ───」


黒髪が揺らぐほどの声量で、何かを言いかけた時。

鼓膜を破りそうな声に、割り込むかのように、魔術師が肩をポンっと叩いたのである。

その事象できごとが終わると、男性は俺が気づくよりも何分なにぶん早く、魔術師へと意識と声を向けていたのであった。


「なんでだい!? 別に言ってもいいじゃないか!!」


当たり前、普通すぎる反応をする。

だが魔術師の顔は怪訝そうな顔をしてるのが、はっきりと見えたのである。

その顔からは絶対とは言い切れないものの、、不都合などの言ってほしくないものがあると、こちらにも伝わってくるような気がした。


別に怒っていると言うわけでもなく、単純に言われてほしくないというものしか、感じとれなかった。

だが男性はその様子に気づくはずもない、何しろ本人がやられたのは、主張や会話を妨害されたなどと、同等な理由である。

人とのコミュニケーションに水を注されれば、まず疑問を抱かない人などいないだろう、熱中した時に言えば怒る人もで出てくる行為だ。


だがこの無駄に長い文を、一撃で壊すようなことを、魔術師は平然と口ずさんだのである。


「まず……周りを見ろ」


そう言われると一瞬で、常識を取り戻た。

……俺はこの時、この男性の話を聞いている時は、少し常識が欠けていたのである。

とは言え、俺が別に常識外れな行動や言葉を言ったわけではなく、単純に集中し過ぎて忘れていた。

その為、周りへの迷惑という言葉が、隅から舞台ことばへと移ることができなかった。


そうしてその言葉を言われたわけでもないのに、恐る恐る……まるで宛先人不明の箱を開けるかのように、周りを見渡したのである。

すると予想通りの光景が、俺たちを囲んでいたのである。

白い目線を向けられ、逃げ場のない檻を作り出していた。

確かに離れれば逃げれるが、その逃げるまでのプランの最中が苦難である。


毛穴が開き、そこから汗が漏れ出る。

身体に刺さるようなかゆみが走る、チクチクと針を刺されているような感覚。

次に来るのは、溢れ出る焦燥感。

最後には、口から心臓が出そうなほどの脈拍。

その三つが順番にならびまるで隊列を成し、上から順に襲ってきた。


「と、いうことみたいだ……どうだ? 移動する気にはなっただろう?」


魔術師は冷静に、言葉も短く話す。

その喋り方も、さも全てを理解しているぞと、言わんばかりのものだった。

そういう喋り方もするのも、この状況を最初から熟知していれば、頷けるのも違和感なく納得できる。

俺がこの魔術師に成り代われるのであれば、同じような言動をしていた……かもしれない。

少し躊躇はすると思うけど。


すると横で黒色の髪をした男性が、無口で地を見つめていた。

それでも何かを言いたげな、気配というものは出していた気がした。

するとその顔を上げだすと、魔術師に向けてこう言ったのである。


「そう……だよね」


白々しく認めた。

先ほどの様子ならば潔く認めるなんて、圧倒的論外としか言いようがない。

俺も“まさか”と口に出しそうになった。

もし言ったら、キレた子供のような目で、睨みつけられるのは確定する。


同時に、地面を歩き始めた。

黒に近い灰の石状の地を靴という、楽器で鳴らしながら歩いた。

耳障りな音が鳴ることなど、この地の上では鳴ることなど一切ない。

ただコツという何もない空っぽの音が、鼓膜に振りかけられるのである、何度も何度も……同じで変わらない音が鳴る。

もしここで走っても、同じ音が高速で鳴るだけであり、この音を掻き消すことはできない。


このいつ使うかわからない、意味のない考えを巡らせながら、目的地すら定まっていないまま石の上をずっと歩く。

そもそもワケのわからない場所で、目的地を見つけろというのが難しい。

まぁ、別にそんなことを考える必要も、また無意味に他ならない。


理由。

理由は簡単だ、だって目の前に二人の案内役がいるからである。

それ以上それ以下でもない。

言えることはこれだけである。

これ以上に何かを求めるなど、それこそ奇異な行為と言える。


「あ、言い忘れていたけど、今向かってるのは司令部だからね!!」


無心状態だった俺の無心を、まるで忘れさせるかのような声が聞こえた。

黒毛の男性の声であり、緊迫状態も壊すほどのレベルにも達していた。


「司令部ってさっき話していた、場所のことですか?」


聞いてみた、別に無意識でと言うわけではなく、しっかりと意識は保っていた状態で……だ。

そして反応が返ってくるのは、思ったより早かったのである。

それも相変わらず、大きい声であるのは変わりないのであるが。


「そう、そうだよ! 少年!!」


勢いよく指を剣を振り下ろすように向けられ一瞬、脈拍がドキッとなり後退りそうになった。

指の先端はまるで長槍の先端のようにも、視覚を持って認識できる。

長く伸ばされた指は、魔術師が収めるかのように下ろしたのである。


「おい、人に指を向けるな……お前は少し、作戦を立てる時の癖は抑えろ」


魔術師が先ほどと同じように、男性に向けて忠告の言葉を放つ。

それは鋼鉄の弾丸のように、男性の意を突いたのである。


「むうぅぅ……」


流石に数回忠告を受けた男性は、反省よりもイライラという、一歩を錆びた歯車のようにズレれば、激昂状態にも映る可能性も秘めているもの。

それを男性は、感情の中から引き出したのだ。


「おい、それよりも早く行くぞ、モタモタしている場合じゃない」


そうやって全員が魔術師の言葉に、移動を促され先導された。

コツコツと言う音がもう一段と早くなり、それは河川の上流の流れにも匹敵する。

早く移動しろ、その言葉を刻まれた時、それを忘却に捨てることはなかった。


歩く、歩く、早歩き、早歩き、早歩き。

足の動きのテンポは悪く、一定のリズムにとどまることはない。

コツコツ、カツカツ。

不協和音が、耳の中に響く。

これを音楽とするならば、評価は全く高くはないだろう。

いや……評価をつけられるような、価値すらもそこに存在は維持は不可。


そこから数分、数十分?

もう計測すらしていない、計測すらも針の穴に糸を通すほど面倒になる。

風景は変哲はなく……と、言いたいがそれをいうと嘘になる。

だから、本当のことを言おう。


まずは人がいる商業区があった、老若男女それぞれが集っており、必要としているものを買い浅ている風景がそこにあった。

食品、雑貨品、娯楽品……エトセトラ、目につける範囲で見れたのはこれだけだった。


次に都市区、地下なのにそれに反している巨大な摩天楼ビル

それが乱立しているという、地上の普通がそこには広がっていた。

間違ってはいけないのが、ここは地下ということである、その事実は確実に覆ることはないのである。


住宅街は……説明は不要か、上から見た通り色とりどりの屋根とその下に存在する、小さな幸せだけ。

それ以上言うことは何もない。


そうして移動で時間を喰らった。

そこから商業区や都市区を繰り返し、空気を切り横切って行った。

別にそこまで、体が疲れることはないが、足もう疲労困憊と言える。

そして目の前にいきなり、地下世界に似つかない場所が出てきたのである。


そこには……巨大な岩のような城が顕現していた。

王都のような、要塞のような……そのように見えるものであった。

だがそれ自体は虜になるようなものはなく、別に視界の上に置けるものだった。

すると魔術師は、唐突に止まりこう言い始めたのである。


「よし、あれを使え」


それは誰に指示した言葉だったのか、俺には理解できるものであった。

その対象は、黒毛の男性だったのである。

すると男性は、無駄な抵抗や無駄な言葉を放つことはなかった。

その代わりに、このようなことを言ったのである。


「それは別にいいんだけど、この子はどうするんだい?」


黒髪の男性が言った言葉は、俺の手に抱かれている少女を指した言葉だった。

すると魔術師は何の悩みもなく、こう言ったのである。


「構わん、先に城内に転送しろ」


その言葉を察して、俺はこの城の中に入るのだと理解した。


「わかった、いいんだね?」


男性は先ほどの口調とは、打って変わった口調へと変化した。

それでも魔術師は、相変わらず冷静な口調だった。


「ああ、もちろん」


「……オッケー」


その時、男性の地面が青色に煌めく。

輝く青色の正体は、全員が入れるほどの大きさを持った、魔法陣だったのである。

それは転送をするのだと、説明を必要とせずに目で見て理解できた。


「さて、行こうか」


男性の声が響いた。

瞬間、目の前が真っ白に染まった。

色のない白に染まり、視界が全て支配され尽くした。

目が痛くなることはなく、ただ単に塞がれただけである。

それでもそれは開けることはなく、瞼を塞ぎ瞬きをしても変わらない。


その次に、目の前が真っ黒になった。

白とは逆の黒に。

黒になった時、視界が何かに塞がれたのだと理解できた。


「なぜ、目をつぶっているんだ」


それは聞いたことのない声だった。

特徴は、よく説明できなかった。

だがその声の性別が、男性だと言うことは間違いない。

俺は視界が塞がっている原因が、自身の瞼だと言うことが理解できた。


そして目を開けた。

目の前には老人が一人、黒の中にある玉座に座っていた。


「ようこそ、最新の魔術師たちよ───」



第30話 終

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