第27話 異国の魔術師
赤い空間すら切り落としてしまうほどの剣を、目の前にいる相対した敵に振り落とした。
コンクリートの粉塵を撒き散らし、もう一度視界が支配された。
だがしっかりと変わらない、切りつけたという相手の戦意を、破片すら残さず壊す
不意に切りつけた業物を持つ、自身の右手を確認する。
そこには淡く弱く……そして儚く消えそうな、直線上の赤い光が粉塵に支配されず、しっかりと視界という回路を通り、目の中に入り確認できた。
そうやって、直接見た感想を並べていると、感想に紛れ込んでいた、予想は早く来てしまった。
「あっ……」
赤い光は光力を、虚空に注ぐように、ゆっくりと消滅へとその光を、絶え間なく躊躇なく流しこんでいく。
猶予なんて望んでも、世界はそれを容認することは、決して存在することはない。
そして……時間は数秒という無意識下ならば、一瞬という間。
その“間”でも、光は自身の存在を、完全に失っていく。
失い始めた時よりも、赤い色と光は薄さを露わにし、残ってくれと懇願しても、その幼稚な願いは絶対に叶わないということを、今この瞬間を持って理解させられる。
そうして何度も経験し突きつけられてきた“理不尽”が、俺に対して因果を用いて、氷に浸した水をかけるように浴びせてくる。
感覚がなくとも、冷たくて、傷に染み付くように痛い。
「待って、もう少し……」
そうやって意味なき理不尽から染められる、声を喉から壊れかけの蛇口から水を捻り出すように、弱々しく漏らした。
そして———赤い線上の光は、もう一度息吹を灯すようなことはせず、ただただ困難を打ち破り、その役目を果たしたかのと、言っているかのように、欠片も少しの塵も残さず消滅していった。
だが俺は少しは何かあるという、どこから湧いたかわからない希望を抱き、もう一度その剣の持ち手にある適当なボタンを全て押した。
カチカチと徐々に希望がなくなる、足音のようなものが俺の耳に音を灯す。
だが変哲もなく、そこにはただ無意味に、大気を浴びる黒い持ち手だけであった。
あがそれでも諦めずに、何度も何度もカチカチとボタンを押し続ける。
ワンタップ、ダブルタップ、他にも長押しをしたりと……そうやって、無駄という廃棄物を生み出して、時間を浪費すること以外俺はしなかった。
それを幾ら続けようとも変わることはない、結果は“役目を終えて壊れて消えた”という絶対普遍。
でも、俺はそれを否定し続けようとする体制を壊さない。
だが……結局はそれも、一時の脆いガラスのような、幻像に他ならなかった。
幻像は俺に一時の希望を与え、そして終わりの時間が来ると、泡のように弾けて割れて消えていった。
そして残るのは、色のない透明な四角か三角かすら分からない、そもそも形すら持っていないような、哀愁というこの上なく意味を見出さない、なんとも言えない空気だけだった。
それでも空気というのは摩訶不思議なもので、そんな空気はすぐに空間を泳いで、どこかへと消えていったのである。
哀愁は消え、残ったものは……ただの無色の大気だけだった。
何も起きず、何も起こされず、ただ二本の足でそこに立っている、自身という存在だけが大気という防御力の無い 軟弱装甲を、隙間なく自身の周りに漂わせているだけであった。
「終わった……もう何も残らないのか? あの戦いでけで、まだ役目があったのに……ここで役目は終わったみたいに、霧散して消えていったのか?」
独白にも後悔にも、その二つ以外にも捉えられるような言葉を、呼吸をする息のように自然的に、鎖で拘束した言葉を解き放つ。
言葉を解き放つと、それを知っていたかのように、突如として俺の視界を遮っていたコンクリートの粉塵の煙が、まるで空間に吸収されているかのように少しずつ消えていく。
少しずつ消えていく煙は、何重の層にも重なっているようであった。
そして全ての層が破られ、空間に吸収されるように、世界から消えていくとその先にあるものがあった。
「あ」
そこには俺が先ほど切りつけた、黒い弓の使い手がいたのであった。
黒い弓の使い手は、赤い液体を服から流し続けていたのであった。
その血液の量は致命傷と思わせるほどであり、亡くなっていると錯覚させるほどであった。
「あ、ああああ!」
俺は咄嗟に喉から今まで何度も出してきた、悲鳴のような声を怒号のようにか、嘆くかのように上げ続けた。
続けたと言うより、ハンドガンを乱射しているような、単発を連射のようにした、声の出し方だったと思う。
喉に激痛とまでは行かない、なんとも表現し難い、それでもしっかりと痛みを伝えてくる感覚は、俺の体を蝕んでいた。
自分でもこう言っているが、よくわからない。
「だ、だだ、だ、大丈夫か?」
体がロクに言う事を聞いてくれない、唇もロクに聞かず俺の言葉を、言わせないように無理やり言葉自体を殺そうとしたのか。
俺であっても、それが理解できなかった。
話しかけても、返答がくることはない。
その固定された事実が、一層と俺に絶望を与えてくる。
覆ることない事実が俺にその爪を露わにし、それで俺を切りつけると言わんばかりに、俺に絶望という猛毒をその爪から絶え間なく与えてくる。
それ自体に感覚はない、当たり前だ人間が作り出した概念が質量を持つわけがない。
質量を持ったら、それはただの物質だからだ。
「はぁうるさいぞ、少しは静かにしたらどうだ? まさか、そんな簡単に死んだとでも、勝手に思い込んでる感じか?」
そうやって自身が生み出した、モノに心酔して浸っていると、突如として自身の前方から、聞き覚えがあり最早馴染むまでに至りそうな、誰かを呼ぶ声が聞こえた。
その声が聞こえたところは、虚空などではなく、煙の根源である正面から聞こえたのである。
「え?」
一瞬、困惑という文字が頭の中を飛び跳ね、マラソンランナーのようにかけ巡ったのである。
だがその二文字は水の濡れのようになかなか拭えず、まるでガムテープのようにべっとりと付いていたのであった。
その拭えないものがずっと残っている俺に、金属の剣を振り下ろすように俺に声をかけてきた。
「そう易々と、殺さないでほしいな。まぁ、先ほどの斬撃は、流石に驚いたが……深い傷すら
受けていないから、安心してくれ」
すると俺が開けた大きな穴の奥から、瓦礫を払い誰かが立ち上がる音が聞こえたのである。
ガラガラと瓦礫が地面へと落ちていく音が、俺の耳に音という透明な見えない色を与えてくる。
音は一つの音だけではなく……一つに固定されていない、水墨画のようにも感じた。
「大丈夫……なのか?」
声を震わせ上下の歯がカチカチと当たる音が鳴り、体も生まれたての子鹿の如く、ブルブルと震わせた。
恐怖などの感情ではなく、単なる心配という必要不可欠な感情から来たモノであった。
とは言え……先ほど戦った相手に、手を差し伸べようとする性格は、いささかお人好しというべきか……ただ単に警戒心が薄いというべきか。
まぁ、そんな事を考えている暇など、今の俺には全くないというべきなんだが。
そして、その人物を見ようとする。
周りの暗さが少し邪魔をするが、それほど確認に支障をきたすようなモノではなかった。
そこにはただ単に黒い布が少だけ、カッターで切りつけたかのようにビリッという効果音が似合うくらいしか、切れていないのであった。
当然それほどしか切れていないのであれば、その奥にある肌が切れるなどあるはずがない。
すると俺が先ほど言及した黒い布の少しだけ切れた部位を、指で指しまるで自身は目立つような大きな傷は負っていないと、言葉を使わず俺に指し示しているようであった。
「これを見ての通り俺自体に、前立つような大きい損傷はない、逆に言えば君は俺を殺しきることができなかった」
「…………」
何も言わず、その敵対者だった者の言葉を受け止める。
その時は口を開くという選択肢が、脳内から消えていた。
そもそも口を開く場面ではないと、そう直感で判断したのかもしれない。
「ま、そこまで引きづらなくていい、それよりその後ろのお嬢さんの方を、心配したほうがいいんじゃないか?」
その人物は俺の後方を、少し長い指で指したのである。
それに誘導されるように、俺は上半身と下半身を器用に動かしながら、後ろを向いたのである。
そこには白い髪に、点々とそして複雑にコンクリートの粉が、粉のように
そして黒い剣をその白い右手に、まるで自身の一部のように離さず、その場に立っている
「あ……」
息が抜けたかのように彼女を見て、何も意味ない一言を発した。
それはまるで、自身の間違いを、自覚したかのように。
彼女を見ると、当然見たことに彼女は気づいた。
その証拠として、赤色の目をこちらに向け、睨みではなくただ単に見ていただけだった。
それでも……彼女の目には、涙が連想されるような、こちらが足から崩れそうなほどの視認すらできない、存在自体が壊れる寸前のガラスみたいに、安定してない切なさがあった。
「大丈夫だから、私のことは心配しない……で」
掠れた声が暗い鉄だらけの世界に響き、聞く者に哀愁を与える。
この声は……正直なところ、あまり聞きたくはない。
彼女のことは普遍の好感度があるが、この声は受け入れることが非常に難しい。
それをいい終わり少しの時間が経つと、彼女はこちらに向かってきた。
その足で、コツコツと履いている靴から出される音を響かせながら、遅くもなく早くもない速度で向かってくる。
その姿は前々から思っていたが、想像を超えるほどの可憐さがあった。
「大丈夫だから……ね?」
そう言いながら、少女は俺の右手の小指を、白雪みたいな両腕でつまんだ。
正直、悶えそうになる……がここは戦場であると自覚しなんとか耐えた。
しかし、こんなにも小さく言われると、戦場であってもそうなってしまう。
「あ、は、はい」
短い言葉を口ずさみ、彼女に返答として返す。
すると彼女は俺から手を離し、俺から少しだけ距離をとった。
少しの距離をとると、白い髪についた目立つコンクリートの粉を、手で必死に払っていた。
パサパサという音が、耳に入ってきた気がした。
「ま、そういうことらしい。さて……君たちには、
他に二人くらい仲間がいるんだろう?」
そう言われ、あの二人の名前と姿が浮かんだのである。
鐘下祐輔、白月マフユ。
どうやってその二人のことを感知したのか、それは全く理解できなかった。
だが二人ぐらいの二人は、確実にあの人たちしかいないのは明白であった。
「少し時間を貸してくれ、すぐ終わるから」
すると目の前の人物は、空中に手をかざし、よくわからない言葉を口ずさんだ。
その瞬間、淡い青色の光がその黒い手袋をした手から、粒の形を持って発生したのである。
その粒はまるで、星のようにこの夜のよりも_暗い世界に、一筋の明かりを灯すかのようであった。
するとその粒は一斉に動き始め、円の形を形成し始めたのである。
そして円を形成すると、その円の中によくわからない文字を作り始め、青色の小さい粒は瞬時に消滅したのである。
そして、その円が青と白の光を放ち、その円の上に突如として、立体モニターのように地図が浮かんだのである。
「ちょっとした基礎に近い、素人でも使えるような”魔術“だよ、見ての通り立体的に地図をつくだけの魔術だ」
そうやって理解の追いつかないようなことを言うと、俺たちの前にそれを持ってきて、とある地点を指で指した。
そこには薄緑に発光する、二つの丸い点があった。
「ここに君たちの仲間がいる、なぁに俺は別に襲撃しようなんて考えは、とっくに失せている」
そうやって俺たちにはすでに、敵対心は持っていないということを、言葉で俺たちに教えたのである。
「と、やはりこちらに向かっているみたいだ、とりあえずこれは閉じるか」
するとその青色の立体的な地図を、その手で握り潰すかのように、立体地図をその手で破壊したのである。
俺から見たら物凄いものなのに、それを普通に握り潰してしまう点、やはり彼にとっては普通のことなのであろう。
「さて、二人が来るまでの間、少しだけ自己紹介をさせてもらおう。私の名前は、ジウスヴァルト・リートランス、簡潔に情報を話すと私はこの国の人物ではない、ましてやこの国に反逆……いや、この世界に反逆を誓っている者だ、そして私はある“魔術を主軸とし、この国に並ぶほどの人口と戦力を保持する、巨大王国”から来た者でもある」
一気に情報を注ぎ込み、それの理解と処理を同時並行で行なった。
そして数分をかけて理解し、彼に対して質問を投げかけたのである。
「えっと……貴方は魔術師ということでいいんですか?」
「その判断で理解してもらっていい、どちらかというと魔術と科学を使用し、この世界を変える方法を模索している、だから純粋な魔術師とは言えないがね」
「では、貴方は魔術の王国から来たということで、いいってことですか?」
「ああ」
「最後に一つだけ、貴方はこの地下に住んでいるんですか?」
「そうだ、君を襲撃した時も、その場所からこの荒廃した駅に来たということだ。君たちも知っている通り、地上は
そう言われ、ハッとすると誰かの声が聞こえてきたのである。
それにはしっかりと聞き覚えがあり、その人物の名前もわかっている。
「ここだよ、祐輔くん!」
「はい!」
すると自身の真後ろから、何かが落ちてくる音が聞こえてきた。
それは丁度、人が二人くらい音だと、聴覚で感じることができた。
「遅れてごめんね、少し手間取っちゃた」
一人の女性の声が聞こえた、その声を出した人物は白月マフユだった。
そして、コツコツと靴を鳴らす音を、響かせながら俺の前に出てきた。
それはまるで、雪が降るような静寂に氷が割れるような、音だったと感じた。
そして目の前に出てきた途端、その少女はこの世のものとは思えない、秘境のような光景を作り出していたのであった。
目の前にいる少女の髪は、炎と何一つ変哲ない赤く汚れのない色から、真冬の夜の鉛のような空が髪の中間まで彩り、そこから下は氷の結晶と思わせる水色がメッシュされていた。
周りには、水色の冷気を見える形で放ち、その手は一部が冬の氷に変化していたのであった。
手には刀を持ち、今にでも戦いを行いそうな、明らかな殺意を放っていたのである。
「貴方、この子達に何をしたの?」
氷のように冷たく、そして透き通るような、美しさも交えた声が外界へと放つ。
「特に、いや少し戦ったというべきかな? まぁ、私には戦う意志はない、最も戦う意味を見出せない……そうだろう? 対策局の白月マフユくん?」
「……そう、ならその言葉、半信半疑だけど覚えておく、でも貴方が戦うのならばその時は───」
その会話には、恐怖と殺意が渦巻く、混沌のようなまたは嵐のような空気が張り詰めていた。
すると少女は刀を、鞘に入れる。
それとほぼ同時に、手に張り付いた氷は溶け、周りの冷気は空間へ戻るかのように消滅した。
そして髪の鉛のような青さと、氷のような水色は、まるで春の訪れかのように自然のように溶け、また炎のような赤色が戻ってきた。
「これでいい?」
「ああ」
そうやって異国の魔術師と、対策局の処理員の話は、嵐が去るかのように一時の恐怖と共に、消えていった。
「ではこれより、君たちを私たちの拠点へと連れていく、武器の使用は厳禁だ」
そして、異国の魔術師線路の方へと移動を始め、俺たちはそれについていった。
第27話 終了
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