第25話 鉄世界での戦闘
そこには雲に覆われていない、希望の塊とも言える青色の空が広がっていた。
目頭が夏の日差しのように熱くなった。
それを見れる時点で、眼球の水分が枯渇するぐらいの涙が出そうだ。
満天の空には真っ黒の鉛にも近い、厚い雲は完全に風に掬われ流され消滅していた。
それもまた、何かの偶然か、神秘のような奇跡のようにも思えてきた。
一方、地下世界には天井が開けられたことで、落ちてきた瓦礫を照らす、一寸の光が差し込んでいた。
瓦礫はまるで何かが鎮座する玉座のように、綺麗に積まれている。
鉄、コンクリート、その他よくわからない素材等々。
周辺には崩壊した際に一度発生し、その後に瓦礫から二度発生した、崩壊の残り香を霧のように表した、宙を舞うコンクリートの粉。
「あ、く……」
体には叩きつけられた時の痛みが、電気のように俺の体を侵食する。
鞭を打つように立ち上がることなど、今の俺には遠い未来のように不可能なことだった。
だが止まっていられないと、その遠い未来のようにまだ起こり得ないことを、現在に呼び出し実行しようとする。
俺は鞭を打って、無理やりこの体を起こそうとした。
だが、そんな無理矢理な体に大きな負荷をかけるような行為は、ボロボロの木で出来た平屋のように一瞬にして打ち壊された。
「くっ、うああ!!」
耐え難くまた普通のような、苦痛が俺の体を襲う。
初めてなことではないけど、俺はこれが相変わらず慣れないことだった。
寧ろこんな苦痛を、耐えれる人物がいるというのならば、変わって欲しいくらいだった。
「クソっ、待て」
生暖かい感触が液体状になり、俺の肌をつたって地面に垂れ落ちる。
それに気づき咄嗟に、声が唐突に漏れてきた。
声が出た理由は本能的と結果づけられる、だが声が出たのはそれだけでは、なぜか足りない気がする。
もっと他に結論づける理由はる気がする、だが今の俺にはそれをゆっくり時間をかけて、考えれるほどの余裕は“一切”存在しなかった。
「
体全身に鞭を入れ、喉奥を雑巾の水を全て絞るかのように、自壊すら厭わない声を全霊で出した。
ジリ……。
脳内に電気信号が走ったかのような、記憶に焼き付くような音が耳にも響いた。
それに呼応するかのように、ゴリやパキ、グチャなどのグロテスク、そのものとも言っていいようなあまり良いものとは言えない音が呻く。
それはこの傷を治した当人にも聞こえているのは、当然である。
当然であるが故、その当人は自身の体が、何かに改良されているような気分に陥った。
当たり前であろう、音なんてなくてもいいのに、わざわざこの時のために用意したかのような、特注品を用意されたのだから。
そして体を起こし自身の両足で、地 を踏んだ。
「治ったのか? なんであんな、あんな音が鳴ったのにか?」
状況は理解できている、傷が治ってただ嫌で不快な音が聞こえたという、単純な状況である。
その音が鳴った後に体を確認すると、生暖かい液体状の感覚は消失していた。
それはただの幻想であるかのように、もう完全にその息の根すら終わっていた。
それはこれ以上、俺に嫌な感覚を与えないということを、間接的に案じていたということが理解できた。
俺は自身に安堵が与えられたことを理解し、胸に突っかかっていた泥のような気配と、肩の重しが一気に喪失した。
とはいえ今までの経験から予測すると、これだけでは済まないような気がしてきたのも、同時に発生した感情である。
そしてもう一度、体が一瞬震え、感覚を全て研ぎ澄まし身構えた。
もしこれで何も起きなくとも、それは絶対に罠であると理解している。
だが、何かが起きるのは必然である。
だってその
いや、正しくは……その中にいる、誰かが動き始めるからだ。
「まだ、来ない? いや……もう死んでいるのか?」
俺は少し緊張が解けた、だがそれを一瞬で理解し、もう一度緊張を取り戻す。
それでも音も何も聞こえることはない、そこ鬼はただの静寂という世界の、
何も唐突に、そしてゆっくりに、その二つすら起こってくれない。
「いや、絶対に来る……」
警戒は解かない、そもそも警戒を解くことは、絶対にすることはない。
この瞬間にもう一度大きな崩壊が起きても、あの瓦礫の山だけは絶対に目を離してはいけなと、俺は確信している。
そうやって長い言葉を脳に出して、ずっと考えていると少々の音が響いた。
「何の音だ? 流石に聞き間違えと言うことは、絶対にないし」
そう独り言を、口から疑問のように漏らした。
すると音が立て続けに聴こえるようになった、パキやゴリ、果てにはゴリガリと削る音すらも、聴こえるようになった。
ここまで来て聞き間違えなんて、口が裂けても言えるはずがない。
ゴリ。
たった一つの
ソレは何かが這い出てくる音にも、ただの何かが擦れた音だったのか。
理解はできない、正体はわかる。
だが、ソレが何かの始まりかは分からない。
「あぁ、クソが。こんなに早く、地下鉄が崩壊するなんてどれだけ崩壊してるんだ」
ソレは静寂の空気を切り落とし唐突に起きた。
音が水の波紋の終わりのように跡も残さず、世界から消去された。
すると瓦礫の山に黒い空間が開かれた、まるでそこから何かが……いや、何かが確実に現れる。
それは知っている者だった、できればもう少し遅く出てきてほしかった。
だがそんな願望、届かないものであるということだった。
「よお、ちょっとばかり油断した。想定に入れていたが、まさか起きるとは思ってもなかた」
コンクリートからは一人、俺を倒した人物が出てきた。
その風貌は海原のように青い短髪、目は月と星の無い夜のような碧眼。
服は群青色のジャケット、そしてその上には真っ黒なローブを羽織り、ズボンは関節部に鉄製の何かが施され、そして変哲ない黒のブーツ。
その目はしっかりとこちらを認識し、確実に睨んでいた。
「さて唐突だが続きだ、お前は死なないが、どっちが先に負けるかの単純な戦いをな」
するとローブの中かをゴソゴソと探り始めると、そこから黒い何かを出した。
それは真っ黒な
弓の形は、非常に洋弓に近かった。
それは空の明かりが灯る今の世界とは、決して相容れない影だった。
だがその弓は何も変哲がなく、本当に使えるのか少し怪しくなる。
それでも、俺を射抜いたのは、この真っ黒な弓であることは絶対だと確信している。
「おい、足元を見てみろ」
その指示に従い、俺は足元を確認した。
そこにはさっきまで、なかったものがあった、
それはただの床だった場所に、その空間を切り裂くかのように、赤く細く光る線があった。
それは“矢”だった。
「……は?」
思わず口から声が漏れた、一瞬で起こった出来事に俺には理解できなかった。
さっきまではなかった、だがそこには確実にあった。
「さてと、次は本当に避けられないぞ?」
すると黒い鉄弓に、二本の赤い光線が、コンマ一秒よりも"早く"引かれる。
一本は弦の役割を、もう一本は数分前に足元を射抜いた赤い矢の役割。
その二つが、戦闘に介入していたのだ。
「さて……死ぬなよ?」
弓が構えられる、赤い線の矢尻がこちらを向く。
もしこの待機時間がなければ、俺は確実に脳天を射抜かれる。
だが、ただ構えるだけで、何もまだ起きていない。
「ほい」
軽々しく戦闘開始の言葉を漏らし、俺に赤色の矢を撃ち込んだ。
それは認識できない速度で、空間を裂き、俺の体に撃ち込まれる。
「なっ!?」
それに対応するかのように、こちらも銀色の銃を出しながら、体を空に飛ばし宙に浮かばせる。
そして垣間に、細い赤い光が見えた。
その光は命中せず、俺が投げ飛ばされた、壁に向かって行った。
瞬間、壁は爆音を上げながら、一部が砕けた。
その威力を見て、全身に鳥肌が立った。
「当たらなかったか、これを避けきるのは……なかなかだな」
「ッ!!」
息が一瞬、硝子瓶の蓋が閉まるかのように詰まる。
だが一瞬でそれを飲み込み、もう一度息を吹き返した。
「逃げないと、撃ち抜かれるぞ?」
言葉が終わると同時にもう一発、赤い光る矢が放たれ、俺を捕捉する。
その赤い矢をもう一度避けようと考えるも、それは無理だということに気づいた。
俺は今、宙を舞っている状態である。
物理的に不可能。
回避するのならば魔術であるが、空気を足場にする魔術などという、ものは俺は持っていない。
俺はこのまま攻撃が、命中する確率が確定ということに変わった。
その赤い矢は問答無用で、俺の方に飛んできた。
そして俺の腕に、強引に残酷に突き刺さった。
そこからは、止まらない赤い赤い血が、漏れ出てきた。
「やぁっ!!」
ハンドガンのトリガーを引く、そこからは乾いた音を上げながら、鉛の銃弾が勢いよく漏れた。
無機質で残酷な音だった。
「文明圏の攻撃は、単純だな」
すると、弓の赤い矢を持ち出し、それで銃弾を全て切りつけ弾いた。
そして、その弾いく時に使用した矢を、弓を使わず俺に投げつけた。
「つ……」
俺はその矢を、難なく避けた。
「じゃあ、もう終わらせたほうがいいか」
その時、弓を構える。
だが赤い矢は、出てこなかった。
その代わりかどうかは分からないが、弓全体に赤い光る線が走る。
「なっ……!」
声が思うように、出なかった。
だが、何かが来ることは確定していた。
弓に赤い線が走ると同時に、矢があるべき場所が目も当てられないほど、赤い大きな光をあげる。
それは原型を留めていない、赤色の矢であった。
「もう一度、吹っ飛べ」
コンマ程度の待機時間もなく、弓が引かれる。
矢は相変わらず問答無用に、そして止まることなく飛んでくる。
避けられない“絶望”が、形を持ち俺を撃墜しようとする。
いや、地上にいたから、別の言い方があったのであろうが、そんなことどうでもいい。
「マズイ……避けられない、こうなったら!!」
俺は
それは昨日の戦闘で、対峙した、ただ一人の名前も昨日知ったばかりものから、託された“空間を裂くかのように光る赤の剣”である。
「せやぁぁぁぁっ!!!!」
そして剣を、その“原型のない矢”に、強引に干渉させる。
だがそう簡単に弾けるような、代物ではない。
そんな物なら、簡単に……簡単に、鉛玉で破壊できるだろう。
金属が擦れるような音がする、耳障りで非常に不快な効果音だ。
「はあああああああっっっ!!!!」
全力で、腕が真っ二つに切断されそうなくらい、人智を超えた力を出す。
それでも、弾けない。
不可能。
意味のない、ただの止めることに変わりがないと、俺に言っているように見えた。
「ちっ、うああああああ!!!」
一向に弱まることのない力を受け、赤い剣が折れそうになる。
期待を壊され、絶望を受けそうになった途端、突如謎の音が響く。
何かに、ヒビが生えるような音。
その瞬間、目の前まで接近していた光が、ガラスを破壊し“溶かす”かのように完全に消滅した。
「え?」
空気が抜けたような、情けない声が出る。
何が起きたのか分からなかった、こんなこと……初めてだったからだ。
そして、それから数秒経つと“唐突に猛烈に手が熱された鉄のように”熱くなった。
「あっつ!!」
今度は空気が抜けていない声が出る、いやそもそも人間が出す普通の声だった。
それは数十秒続き、そして一瞬にして無くなった。
それが終わり、少しだけ手を押さえた。
そして押さえながら、自然的に戦っていた人物の顔を見る。
理由なんてわからない、だがなぜか見てしまったのであった。
「は、え? なんで……」
ソイツは俺の顔を見ながら、目を丸くし“驚愕”の二文字を顔に出していた。
「おま……え、その剣は」
その表情は、俺が光を弾いたことよりも、剣に対して向けていた。
第25話 終
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